改革は、政策文書のなかでは進む。しかし体育館では、どうなのか。中国では21世紀初頭から、教師中心・技能重視の体育から学習者中心の体育へという大規模なカリキュラム改革が政策として推進されてきましたが、その改革を実際に授業に落とし込むのは、一人ひとりの体育教師です。
本稿で紹介するのは、Aijing JinがPhysical Education and Sport Pedagogy誌に2013年に発表した「Physical education curriculum reform in China: a perspective from physical education teachers」です。政策立案者や研究者の視点で語られがちなカリキュラム改革を、現場で教える体育教師の視点から検討したもので、改革の成否は教師が改革をどう理解し、受け止め、実践しているかに大きく依存するという立場に立っています。
この記事の要点
- 中国の体育カリキュラム改革を、政策側ではなく現場の体育教師の視点から検討した2013年の研究。教師中心・技能重視から学習者中心への転換が政策として掲げられる一方、それを実践する教師が改革をどう理解し、受け止め、実践しているかが問われている。
- 中国のカリキュラムが学習者中心を志向しているという事実は意外だった。中央集権的な意思決定を中心とする制度設計と、ローカルな実践や認識を中心に据える学習者中心のカリキュラムは、矛盾をはらんでいるように私には思える。
- 学習者中心主義のなかで育った子どもたちは、将来、中央集権的な制度そのものに疑問を持つことがあるのではないか。現行制度にとって自壊的にもみえるカリキュラムを導入する意義は何なのか。私の中国認識が間違っている可能性も含めて、興味を持てた論文である。
詳しい検討は 専門家コメント に書いています。
研究の背景
中国では21世紀初頭から、教育全般にわたる大規模なカリキュラム改革が進められてきました。体育科教育においても、従来の教師中心・技能重視の指導から、学習者中心の教育へと転換が図られています。このような改革は政策レベルで推進されますが、実際に教育現場で改革を実践するのは教師です。 本研究は、Physical Education & Sport Pedagogy誌に2013年に掲載されたAijing Jin氏による論文で、中国の体育カリキュラム改革を、実際に現場で教える体育教師の視点から検討したものです。改革の成否は、教師がどのように改革を理解し、受け止め、実践しているかに大きく依存するため、教師の視点は極めて重要です。研究の意義
カリキュラム改革に関する研究は、政策立案者や研究者の視点から論じられることが多く、実際に改革を実施する教師の声が十分に反映されないことがあります。本研究は、体育教師という現場の実践者の視点を重視することで、改革の実態や課題をより正確に把握しようとする試みといえます。 特に中国のような大規模な教育システムにおいては、中央で決定された改革方針が地域や学校レベルでどのように受容され、実践されるかを理解することが、改革の成功に不可欠です。中国の体育カリキュラム改革の特徴
中国の体育カリキュラム改革は、以下のような特徴を持つと考えられます:学習者中心のアプローチ
従来の教師主導の一斉指導から、生徒の興味や関心を重視した学習者中心の教育への転換が図られています。生徒の主体的な学びを促進することが重視されています。健康重視の方向性
単なる運動技能の習得だけでなく、生涯にわたる健康的なライフスタイルの基礎を築くことが目標とされています。評価方法の多様化
技能テストだけでなく、態度や知識、参加度など、多面的な評価が求められるようになっています。教師が直面する課題
このような改革において、体育教師は様々な課題に直面していると推測されます:- 指導方法の転換: 長年慣れ親しんだ指導方法を変えることへの抵抗や困難
- 研修の必要性: 新しい教育理念や方法を学ぶための継続的な専門性開発
- 施設・設備の制約: 改革の理念を実現するための物理的環境の整備
- 評価の複雑化: 多面的な評価を実施するための時間と労力の増加
現場への示唆
本研究から得られる示唆として、以下の点が考えられます:教師の声を聴くことの重要性
カリキュラム改革を成功させるためには、政策立案段階から実施段階まで、教師の意見や懸念を十分に聴取し、反映させることが不可欠です。継続的な支援体制の構築
改革を現場で実践する教師に対して、研修機会の提供、教材開発の支援、同僚との協働の場の設定など、継続的な支援体制を整えることが重要です。段階的な実施の必要性
急激な変化は現場に混乱をもたらす可能性があります。教師が新しい方法を試行し、振り返り、改善するための十分な時間を確保することが求められます。文化的文脈の考慮
中国の事例は、カリキュラム改革が各国・地域の文化的、社会的文脈の中で理解される必要があることを示唆しています。他国の改革事例を参考にする際も、自国の状況に合わせた適応が必要です。まとめ
本研究は、中国の体育カリキュラム改革を教師の視点から検討することで、改革の実態と課題を明らかにしようとするものです。教育改革の成否は、政策の内容だけでなく、それを実践する教師がどのように改革を理解し、受け止めるかに大きく依存します。 日本を含む他の国々においても、体育カリキュラムの改革や見直しが進められています。中国の事例から学べることは、改革を推進する際には、現場の教師の声に耳を傾け、適切な支援体制を整えることの重要性です。教師が改革の意義を理解し、自信を持って新しい実践に取り組めるような環境づくりが、改革成功の鍵となるでしょう。専門家コメント
中国のカリキュラム構成が学習者中心を志向しているという事実は意外でしたし、日本でも同じような課題意識が報告されています。中国の中央集権制の意思決定が中心となる制度設計と、ローカルな実践、認識が中心になることの学習者中心のカリキュラムは矛盾をはらんでいるように思います。つまり、学習者中心主義の中で育った子供たちは将来的に中国の中央集権制に疑問を持つこともあるのではないでしょうか。現行制度の自壊的なカリキュラムを導入する意義はなんでしょうか。私の中国に対する認識が間違っている可能性も含めて興味を持つことができた論文の1つです。元論文情報
- タイトル: Physical education curriculum reform in China: a perspective from physical education teachers
- 著者: Aijing Jin
- 掲載誌: Physical Education & Sport Pedagogy
- 発行年: 2013
- DOI: 10.1080/17408989.2011.623231
- URL: https://doi.org/10.1080/17408989.2011.623231
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