本記事では、トルコ・イノニュ大学のHulusi Bokeらによる研究論文「Effects of cooperative learning on students’ learning outcomes in physical education: a meta-analysis」(Frontiers in Psychology誌、2025年)を紹介します。体育における協同学習(Cooperative Learning:CL)の効果を、情意・認知・身体・社会の4領域にわたって定量的に統合した、初のメタ分析です。
研究の背景・目的
協同学習は、体育の分野でスポーツ教育(SE)に次いで多く研究されている教育モデルです。しかし、これまでのレビューは記述的なものにとどまるか、内発的動機づけなど情意領域の一部だけを扱ったメタ分析に限られていました。
Kirk(2013)が示した体育の4領域(情意・認知・身体・社会)の学習成果全体にわたって、協同学習の効果を効果量として統合した研究は存在していませんでした。本研究は、この空白を埋めることを目的としています。
方法
英語・スペイン語・トルコ語の12のデータベースを網羅的に検索し(最終検索2024年6月2日)、コクラン手法とPRISMA声明に準拠して実施されました(PROSPERO登録:CRD42024532607)。
対象は、体育における直接的な協同学習介入を扱った実験デザインまたは準実験デザインで、小学校から大学までの学生が対象です。当初43研究60報告が該当しましたが、外れ値3件を除外し、最終的に40研究・56報告・参加者3,985名が分析対象となりました。効果量指標にはHedgesのgを用い、ランダム効果モデルで統合しています。
結果・考察のポイント
全体の効果
協同学習は、従来の指導法と比較して全体として中程度の正の効果(ES = 0.459、p < 0.001)を示しました。出版バイアスの検定(ファンネルプロット、エガーの回帰切片、ベッグ・マズムダールの順位相関、フェイルセーフ数)はいずれもバイアスのリスクが低いことを示しています。
4領域の効果量には明確な序列があった
サブグループ分析の結果、効果量には以下のような階層構造が見られました。
- 社会的学習:ES = 0.612
- 認知的学習:ES = 0.589
- 身体的学習:ES = 0.471
- 情意的学習:ES = 0.304
社会的領域で最も高い効果が出たのは、協同学習が共通の目標志向、役割の分化、社会関係資本の蓄積といったダイナミクスを体系的に動員する構造を持つためだと説明されています。
一方、情意的領域の効果が最も低かった点について著者らは、これを単純な弱点ではなく、情意の発達が長期的で時間を要する性質を持つこと、また集団のダイナミクスと個人の情動的プロセスとの間に不整合が生じうることに起因する可能性を指摘しています。
身体的領域についても、運動技能の習得には個別化された反復や固有受容感覚のフィードバックといった神経生物学的要件が不可欠であり、協同学習は万能薬ではなく状況に応じた補助手段として位置づけるべきだと論じられています。
効果は文脈に左右されなかった
注目すべきは、検討されたすべてのモデレーター変数——出版元、国、学年、研究デザイン、スポーツ内容、指導構造、介入期間、出版年、標本サイズ、研究の質スコア——において、効果量に有意差が認められなかったことです(p > 0.05)。
著者らはこれを、協同学習の有効性が文脈的・方法論的条件ではなく、社会構成主義理論という認識論的基盤そのものに根ざしていることの表れだと解釈しています。ただし同時に、「スポーツ内容」のような大まかな分類が文脈固有の力学を覆い隠し、一貫性があるという人為的な印象を生んでいる可能性にも言及しています。
現場への示唆
本研究の実践的な含意は、協同学習を「万能の解決策」として扱うのではなく、社会的学習成果をその中核的な強みとして位置づけ、他のモデルと戦略的に組み合わせる基礎的な教育モデルとして捉えるべきだという点にあります。
具体的には、体育のCLユニット内で「観察者・戦略家」「実践者・批評家」といった役割を周期的に割り当てることで、運動技能の発達とメタ認知的意識の双方を育てられると提案されています。また、情意領域を強化するには、TPSRモデルや社会情動的学習(SEL)とのハイブリッド化が有効かもしれないと述べられています。
一方で警告もあります。時間的制約、技能レベルの不均一性、専門外教育者への依存といった条件が重なる場合、段階的なカリキュラム設計がなければ、社会的結束と技能習得の両方を希薄化させ、協同学習の導入が「見せかけだけの妥協」に終わる恐れがあるという指摘です。
まとめ
本研究は、体育における協同学習の効果を4領域にわたって初めて定量的に統合し、社会>認知>身体>情意という明確な序列を示しました。この序列を理解した上で、何を狙って協同学習を使うのかを教師が自覚的に設計できるかどうかが、その成否を分けることになりそうです。
専門家コメント
まず全体として、4領域の効果量が数値として並んで示されたことの意義が大きい。社会(0.612)>認知(0.589)>身体(0.471)>情意(0.304)という序列は、感覚的には多くの体育教師が納得するところだと思うが、それがエビデンスとして提示されたことで、「何のために協同学習を使うのか」を設計段階から意識できるようになる。
特に自分の実践に持ち帰りたいと考えたのは、論文が提案する「構造化された柔軟性」という考え方である。協同学習の社会的な枠組みは維持したまま、認知的課題のレベルを生徒のプロフィールに応じて個別化する。つまり、枠組みそのものを学習者に合わせて操作できるという発想であり、これは実際の授業づくりにそのまま応用できる視点だ。
あわせて、「グループとしてどのように考えているかについて考える」という社会メタ認知的意識に関する記述も印象に残った。個人の振り返りにとどまらず、集団としての思考プロセスを対象化させるという発想は、今取り組んでいる実践にも活かせそうだと感じている。
一方で、最も納得させられたのは「見せかけだけの妥協」という表現だった。時間的制約があり、生徒の技能レベルにばらつきがあり、指導者が必ずしもその領域の専門家ではない——この条件は日本の学校現場にもそのまま当てはまる。段階的なカリキュラム設計や緻密な順序立てがないまま協同学習を導入すると、社会的な結束も技能の習得もどちらも中途半端になり、形だけの「協同学習」になってしまう。導入することそのものが目的化しやすいだけに、厳しくも的確な指摘だと思う。
身体的学習の節で言及されていたメルロ=ポンティの身体現象学からの再考、すなわち「運動技能は単なる技術的習得ではなく、社会文化的実践と統合された身体的意識の一形態である」という視点は、本論文の中でも重要な主張だと受け止めた。体育における身体を、測定可能な技術的対象としてのみ扱う限り、協同学習が本来持つ創造性やアイデンティティ形成への寄与は見えてこない。効果量という定量的な枠組みの中で、あえてこの視点に触れている点に誠実さを感じる。
最後に、情意的領域の効果量が最も低かったことについて。著者らが述べるように、これは協同学習の弱点というより、情意の発達が長期的で時間を要する性質を持つことの反映だろう。裏を返せば、この領域を捉えるには長期的な観察が必要だということでもある。短期の介入研究で情意面を測ろうとすること自体に無理があるのかもしれない。今後の研究の方向性を考えるうえでも示唆的な指摘だった。
元論文情報
- タイトル: Effects of cooperative learning on students’ learning outcomes in physical education: a meta-analysis
- 著者: Hulusi Boke, Yalin Aygun, Sakir Tufekci, Fatma Hilal Yagin, Burak Canpolat, Goktug Norman, Pablo Prieto-González, Luca Paolo Ardigò
- 掲載誌: Frontiers in Psychology, 16:1508808
- 発行年: 2025
- DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1508808
- URL: https://doi.org/10.3389/fpsyg.2025.1508808


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