学習指導要領を、一緒に読む|次期改訂を「自分の目で」判断するためのシリーズを始める

学習指導要領を、一緒に読む。答申を待たない。原文から、一節ずつ。 学習指導要領を読む

「次の指導要領、体育はどう変わるんですか」。この一年、こう聞かれることが明らかに増えました。答えは持っています。でも、その前に一つだけ聞かせてください。今の学習指導要領の体育の目標を、最後に原文で通して読んだのは、いつですか。

私自身、正直に言うと、必要なところを必要なときに引く読み方しかしてきませんでした。指導案を書くとき、評価規準を作るとき、解説を開く。それで困らないから、通して読み直す機会がない。多くの先生も、体育科教育を学んでいる学生や院生の方も、たぶん似た状況だと思います。

このシリーズは、次期学習指導要領(体育・保健体育)を、私と読者の皆さんとで一緒に読み進めていくものです。この記事では、何のために、どこまで、何を、どういう順番で扱うのかをお話しします。

※以下に登場する「ゼミ生」は、私がこれまでにゼミや研修で受けた質問をもとにした架空の人物です。

なぜ今、現行の指導要領を読み直すのか

答申が出た日から、「体育はこう変わる」という記事は山ほど出ます。でも、「何が変わったか」は、「今どう書かれているか」を知っている人にしか判断できません。表現だけが変わったところを「変わった」と読み、実質が変わったところを見落とす。改訂のたびに繰り返されてきたことです。

ゼミ生
ゼミ生

でも、原文を通して読むのは正直きついです。一文が長いし、「〜すること」ばかりで。

栗田
栗田

そうなんです。だから一人で通読するのはやめて、毎回一節だけ取り出して、一緒に読む形にしました。

ゼミ生
ゼミ生

一節って、どのくらいですか。

栗田
栗田

数行から一段落。通勤の間に読める分量です。

「一緒に読む」というのは、文字どおりの意味です。私が読んで解説するのではなく、私も読み直す。研究者として読みたい理由もあります。指導要領の文言は、審議会でのやり取りと、先行する研究や実践の議論を背負って書かれています。一節の背後に何があるのかを辿ることは、体育科教育学の研究そのものと重なるからです。

審議はどこまで進んでいるか(2026年9月時点)

「答申はまだ」と聞くと何も決まっていないように聞こえますが、実態は違います。教科レベルの審議は、すでに一巡しています。

体育・保健体育については、中央教育審議会の「体育・保健体育、健康、安全ワーキンググループ」が、2026年6月5日の第10回で取りまとめ骨子(案)を、7月10日の第11回でWG取りまとめ(案)を示しました。全体では、教育課程企画特別部会が8月31日の第17回で「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)」を示しています。この先は、審議まとめ → パブリックコメント → 答申(令和8年度冬頃の予定)→ 告示(令和9年度予定)と進み、小学校は2028年度から先行実施、2030年度に全面実施という見通しです。いずれも予定であって、変わる可能性があります。

つまり、体育の中身は「取りまとめ(案)」としてもう読めます。このシリーズは答申を待ちません。現行の一節と、取りまとめ(案)の対応箇所を並べて読むところから始めます。

シリーズの構想図
このシリーズの構想。現行の一節と審議資料の対応箇所を並べて読み、すべての記述を四つに区分して書く。

扱う範囲

扱うものは、小学校の体育と、中学校・高等学校の保健体育です。文書としては、学習指導要領の本文、解説、そして今回の改訂に関わる答申・審議まとめ・ワーキンググループの配付資料と議事録まで。

扱わないものは、他教科や総合的な学習の時間(体育と直接関わる場合は除きます)、改訂の政策としての是非、そして特定の指導法や教材の推奨です。

ゼミ生
ゼミ生

指導法を勧めないんですか。ちょっと物足りない気もします。

栗田
栗田

物足りないくらいでいいと思っています。「こう教えるべき」と言い始めると、文書を読む話ではなくなるので。文書をどう授業にするかは、それぞれの現場と、それぞれの研究に委ねられている部分です。

二つの形式:一節メモとまとめ記事

このシリーズの記事は二種類あります。

一節メモは、原文を一節そのまま引用して、出典を付け、私からのひとことを300〜400字添え、最後に読者の皆さんへの問いを一つ置きます。毎週金曜の朝に1本、番号を付けて積み上げていきます。現行を読む回と取りまとめ(案)を読む回を対にして出すので、番号は奇数と偶数で対になります。

まとめ記事は、改訂の節目に、それまでのメモを編み直した一本です。審議のまとめ、答申、告示という三つの区切りで出します。分量はこのサイトの論文紹介と同じく2,000〜3,000字。末尾に「研究者向けの注」を固定で置いて、原文の正確な箇所、その記述がどの審議や議論に由来するか、関連する先行研究、まだ決着していない論点をまとめます。

ゼミ生
ゼミ生

注は、読まなくてもいいですか。

栗田
栗田

読まなくていいです。本文は現場の先生に向けて書きます。逆に、学生・院生・研究者の方は注だけ読んでもらっても構いません。

一つだけ約束します:四つの区分

ゼミ生
ゼミ生

研究者が書くと、どこまでが指導要領で、どこからがその人の意見か、分からなくなりませんか。

栗田
栗田

それが一番怖いところです。

指導要領を扱う記事で一番起きやすい事故は、「まだ書かれていないことを、書かれているかのように語る」ことです。私はそれをしたくないし、読んでくださる皆さんに「文書にそう書いてあるのか」と思い込んでほしくもありません。そこで、このシリーズで書くことはすべて、次の四つのどれかに区分して書きます。

  • 【原文】 学習指導要領の本文・解説・答申に実際に書かれていること。必ず出典を付けます。
  • 【審議段階】 取りまとめ(案)や審議まとめ(素案)など、確定前の資料に書かれていること。「〜という方向が示されている(資料名・日付)」と段階と時点を明示して、「〜になる」とは書きません。
  • 【識者の見解】 研究者や教科調査官の方が名前を出して述べていること。誰が・どこで・いつを必ず付け、賛否が分かれる論点では両方を並べます。
  • 【私の解釈】 それ以外のすべて。私の読み、予想、評価です。一節メモでは「ひとこと」の節がこれにあたります。
ゼミ生
ゼミ生

面倒じゃないですか。

栗田
栗田

面倒です。でも区分が見えていれば、どこまでが文書で、どこからが私かを、読む側で判断できます。それが「一緒に読む」の条件だと思っています。

読む順番

語を一つ選び、現行(平成29・30年告示)でどう書かれているかを読む回と、その語が取りまとめ(案)でどう書き換えられようとしているかを読む回を、対にして出します。現行だけを先に読み切るより、並べたほうが、何が変わり、何が変わっていないのかが一目で見えるからです。

ここまでに読んだのは、次の語です。

  • 見方・考え方 #001(現行)/#002(取りまとめ案)
  • 関わり方(する・みる・支える・知る) #003(現行の解説)/#004(取りまとめ案)
  • 態度 #005(現行)/以降で取りまとめ案

このあと扱う予定の語は、三つの柱と内容の書かれ方、運動の楽しさ、低・中学年の運動遊び、保健と体育のつながりです。順番は、メモがたまった順に決めます。読者の皆さんの反応で入れ替わることもあると思います。

一節メモとは別に、改訂の節目ではまとめ記事を出します。審議のまとめが公表されたときに体育・保健体育の全体像を一本、答申のときにまとめからの差分を一本、告示のときに確定版を一本。その後は、告示・解説を読む回、先行実施が始まったら移行期に現場で起きていることと改訂の検証をどう設計するかを考える回、と続けていく予定です。数年がかりのシリーズになります。

読んでくださる皆さんへのお願い

三つあります。

一つ目。できれば原文を手元に置いてください。学習指導要領も解説も審議資料も、文部科学省のサイトで公開されています。私の引用が正しいかどうかを、読む側で確かめられる状態にしておきたいのです。

ゼミ生
ゼミ生

先生を疑え、と。

栗田
栗田

疑ってください。

二つ目。一節メモの末尾の問いに、ご自身の現場や研究の文脈で答えてみてください。コメント欄でも、ご自身のノートでも構いません。まとめ記事は、寄せられた読みも踏まえて書きたいと思っています。

三つ目。誤りを見つけたら教えてください。引用の一字違い、出典のページ違い、見解の紹介の不正確さ。訂正は記事を書き換えるのではなく、末尾に追記する形で行います。「この時点ではこう読んでいた」が辿れることも、このシリーズの価値の一部だと考えているからです。

まとめ

  • 次期学習指導要領は答申前ですが、体育・保健体育の「WG取りまとめ(案)」(2026年7月)と全体の「審議まとめ(素案)」(同8月)まで出ていて、中身はすでに読めます。
  • このシリーズは、現行の一節と取りまとめ(案)の対応箇所を並べて、「何が変わり、何が表現だけ変わり、何が変わっていないか」を自分の目で判断できるようになることを目指します。
  • 毎週金曜に「一節メモ」を1本、現行と取りまとめ(案)を対にして積み上げ、改訂の節目に「まとめ記事」へ編みます。まとめ記事の末尾には研究者向けの注を置きます。
  • すべての記述を【原文】【審議段階】【識者の見解】【私の解釈】のどれかに区分して書きます。
  • 次回、一節 #001 として、小学校体育の目標の冒頭の一文を読みます。

出典

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