態度は、どこへ行くのでしょうか。
2026年10月5日、中央教育審議会初等中等教育分科会の教育課程部会が「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」を取りまとめ、同日付で公表しました。体育・保健体育についての記述も入っています。このシリーズでは、これまで一節ずつ原文を読んできましたが、今回は節目のまとめ回として、体育の記述のうち「態度」に関わる部分を読みます。#005と#006で読んできた話が、ここで一つの答えらしきものを与えられているからです。
今回読む一節
公正・協力等の「態度」に関する要素については、今般の改訂で、児童生徒の本質的な理解を目指し、その上で「運動とどう関わるのか」ということを理解・経験する学びを実現しようとしていることを踏まえ、「運動との関わり方」と整理する。
次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(令和8年10月5日、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会)第2部第2章「体育、保健体育」p.266 より
短い一文ですが、ここに三つのことが入っています。公正や協力といった要素を「態度」と呼ぶのをやめること。それを「運動とどう関わるのか」の理解と経験の問題として捉え直すこと。そして、新しい名前が「運動との関わり方」であること。
現場では、こう読まれそうです
この記述が流れてきたとき、最初に出てくる受け止めは「態度の評価がなくなるのか」だと思います。あるいは「公正や協力を、知識として教えるということか」。どちらも、無理のない読み方です。
ただ、まとめの別の箇所を並べると、少し違う景色が見えてきます。学習指導要領実施状況調査では、態度に関する要素は「できている」という結果が出ています(p.263)。その一方で、課題として挙げられているのは、指導が形式的になりかねないこと、そして教科独自の要素と全教科共通の二側面(粘り強さ・自己調整)が混ざってしまっていることでした(p.268)。
つまり、子どもができていないから変える、という話ではありません。できているように見えるけれど、何を見てそう言っているのかが曖昧だ、という話です。この非対称を押さえておかないと、今回の整理は「態度を軽くする」という方向に読み違えられます。
一語ずつ読みます
「運動との関わり方」
現行の指導要領では、公正・協力・責任・参画・共生・健康・安全は「学びに向かう力、人間性等」の指導事項として書かれています。まとめでは、これらを「知識及び技能」を中心に再整理する方向が示されました(p.267、p.268)。なぜそうするのかという概念的な知識、それが何であるかという知識、そして行い方としての技能。この三つに着目する、という書き方です。
ここで、#003で引っかかった問題を思い出しておきたいところです。あのとき私は、「関わり」という語が同じ文書の中で複数の意味で使われていて錯綜している、と書きました。まとめでは、「する・みる・支える・知る」のほうに改正スポーツ基本法の「集う」「つながる」を加えて「多様な楽しみ方」と整理し、空いた「関わり方」という名前を態度要素のほうに付けた、という形になっています(p.266)。語が変わったのではなく、語の指す相手が入れ替わった、という読み方のほうが正確です。
ここは、この記事でいちばん丁寧に書いておきたいところです。少し遠回りをします。
現行の指導要領では、「関わり方」という言葉は、運動そのものへの向き合い方を指していました。する・みる・支える・知る。やるだけが体育ではなく、見ることも、支えることも、知ることも、運動との関わりの一つである。そういう意味で使われてきた言葉です。一方で、公正・協力・責任・参画・共生・健康・安全は「態度」と呼ばれ、別の場所(学びに向かう力、人間性等)に置かれていました。言葉と中身が、二組あったわけです。
審議まとめでは、この二組が、それぞれ別の名前に付け替えられています。
| 中身 | 現行での呼び名 | 審議まとめでの呼び名 |
|---|---|---|
| する・みる・支える・知る(+集う・つながる) | 関わり方 | 多様な楽しみ方 |
| 公正・協力・責任・参画・共生・健康・安全 | 態度 | 運動との関わり方 |
表にすると、起きたことがはっきりします。「関わり方」という言葉は消えていません。残っています。ただし、その言葉が指していた中身は「多様な楽しみ方」へ名前を変えて出ていき、空いた「関わり方」という名前に、これまで「態度」と呼ばれていた中身が入りました。言葉が引っ越したのではなく、言葉と中身の組み合わせが替わった、ということです。
なぜここにこだわるかというと、読み違えたときの実害が大きいからです。たとえば「次期の体育では関わり方が重視される」という一文を見たとき、それが運動との向き合い方(する・みる・支える・知る)の話なのか、公正や協力の話なのかで、言っていることはまるで別物になります。現行の資料と審議まとめの資料を並べて「関わり方」で検索をかけると、同じ語が、ほとんど別の中身を指したまま並ぶことになります。
一節 #003 で、私はこの状態を「錯綜している」と書きました。WG取りまとめ(案)の段階では、同じ文書の中で「関わり」という語が複数の意味で使われていて、どちらに整理されるのか分からなかったからです。審議まとめは、その問いに一つの答えを出しました。錯綜が自然に解けたのではなく、どちらの意味で使うかが決められた、という言い方が正確だと思います。
「多様な楽しみ方」
では、これまで「関わり方」と呼ばれていた「する・みる・支える・知る」はどうなったか。「集う」「つながる」を含めて「多様な楽しみ方」と整理されました(p.266)。スポーツ基本法が令和7年に改正されたことが背景にあります(p.264)。#004で「関わり方はいま何を指しているのか」を追いましたが、その問いに対する、現時点での答えがこれです。
「運動やスポーツの多様な楽しみ方を目指す態度(仮称)」
そして、ここが一番見落とされやすいところです。態度に関するものが全部「知識及び技能」へ引っ越すわけではありません。現行で「愛好的な態度」と呼ばれてきたものは、「運動やスポーツの多様な楽しみ方を目指す態度(仮称)」と名前を変えて、「学びに向かう力、人間性等」に残ります(p.268)。
#005で読んだのは、現行の目標(3)が「運動やスポーツの価値」という語で何を指しているのか、という問題でした。そこで扱った愛好的な態度は、今回の整理のあとも、態度のまま残るということになります。態度が消えるのではなく、態度と呼ばれていたものの中身が二つに分かれた、と言ったほうが実態に近いと思います。
現行では、どう書かれていたか
現行の学習指導要領では、公正・協力・責任・参画・共生・健康・安全は、各領域の内容(3)として並んでいます。つまり、同じ場所に、愛好的な態度と、公正や協力とが一緒に置かれていました。
今回の整理は、この一つの箱を二つに割る作業だと読めます。公正や協力のように「何であるか」「なぜそうするのか」「どう行うのか」を言葉にできるものは、知識と技能の側へ。運動やスポーツを好きでい続けようとする構えのほうは、学びに向かう力の側へ。資料編の図(p.826)が、この移動を現行と改善イメージの対比で示しています。
ここから言えること/言えないこと
言えるのは、方向が示されたということです。資質・能力の三つの柱のあいだで、要素が移動する。その移動先と、移動させる理由が、文書に書かれました。あわせて、高校2年以上で示す技能を現行の中学3年〜高校1年程度を基本とする方向(p.271、p.833)や、小学校4年までは具体的な運動のやり方の示し方を改める方向(p.271)も出ています。
言えないのは、評価がどうなるかです。まとめ自身が、「運動との関わり方」について態度主義的な評価とならないように留意しつつ、指導と評価のイメージを更に検討する必要がある、と書いています(p.273)。資料編の授業イメージの図にも、学びに向かう力の評価について「評価の具体については、今後更に検討」と注記が入っています(p.828)。技能の具体的な内容も「追って検討」です(p.833)。
もう一つ、これは体育だけの話ではありません。まとめの第1部第6章では、全教科共通で「主体的に学習に取り組む態度」の評価の在り方が見直されようとしています。観点としては残しつつ、各教科ごとの目標に準拠した評価をやめ、総合所見欄での個人内評価と組み合わせる方向が検討されています(p.61)。体育の「態度」の話は、この全教科共通の評価改革と対で読まないと、たぶん読み違えます。
(ここからは私の解釈です)公正や協力を知識と技能の側に置くことは、それを「言葉にできるもの」として扱うということです。それ自体は、何を見て評価しているのか分からないという現状への、まっとうな応答だと思います。ただし、言葉にできる部分だけが残り、言葉にならない部分が評価の外に押し出される、という結果になる可能性もあります。そこは、これから出てくる評価のイメージを見ないと分かりません。
明日の授業で試せる読み方
〔原文の記述から〕 公正や協力を、心がけとしてではなく、三つの面から言葉にしてみる。なぜそうするのか、それは何であるか、どう行うのか。まとめが挙げているのは、この三つです(p.268)。たとえばゲームで審判を交代でやるとき、「ずるをしない」で終わらせず、なぜその役が要るのか、何をもって公正と言うのか、具体的にどう振る舞うのか。言葉にしてみると、指導していたつもりで指導していなかった部分が、わりとはっきり出てきます。
〔私の経験から〕 低学年・中学年のボール運動で、「遊び」の要素をどこまで意図を持って設計できているかを、ねらう動きの側から点検してみる。まとめは、小学校1年から4年までを運動遊びで通す方向を示し、運動遊びを、やらされるものではなく、教師の指導の意図性を持ちつつ内発的動機づけで取り組む活動として説明しています(p.269)。遊びにするか、運動にするかではなく、遊びの形をとったまま何を学ばせるか、という問いの立て方になります。
読者への問い
皆さんが受け持っている学年で、公正や協力を「知識」として言葉にしたとき、子どもはそれを自分の言葉で言い直せるでしょうか。そして、言い直せたことと、実際にそう振る舞えることは、どのくらい重なるでしょうか。これが正しいという答えがあるわけではありません。その是非について、皆さんなりの意見を持つことが大事だと思います。
研究者向けの注
- 出典の箇所:体育・保健体育の記述は第2部第2章、印字ページ262〜273。資料編(保体①〜㉗)は印字ページ811〜837。本稿で中心に扱ったのは p.266(表現の整理)、p.267(系統性と「運動との関わり方」)、p.268(態度の指導と評価、新たな「学びに向かう力、人間性等」)、p.273(学習評価)。図では p.826(資質・能力の整理の現行/改善イメージ対比)、p.833(技能の高度化の見直し)。
- 記述の由来:体育・保健体育WG第11回(2026年7月10日)資料1-3「WG取りまとめ(案)」からの継承と変化として読める。とくに補足イメージ③における「関わり」の定義は、一節 #003 で「文書内で複数の意味に錯綜している」と整理した箇所にあたる。まとめでは「運動との関わり方」として本文に位置づけられ、この点は一段進んだ。
- 全教科共通の評価改革との関係:第1部第6章(印字 p.60〜61)。現行の「主体的に学習に取り組む態度」について、粘り強さが形式的な勤勉さの評価に留まる例、自己調整が教師の負担と子どもの忖度を生む例が課題として挙げられ、観点としては存置しつつ各教科ごとの目標に準拠した評価をやめる方向が検討されている。体育の「態度」の整理を単独で論じると、この文脈を落とす。
- 未決着の論点:態度に関する要素を知識・技能の側に置くことが、情意の評価を実質的にどう扱うことになるのか。「態度主義的な評価とならないように留意」(p.273)という留保が、評価規準のレベルでどう具体化されるか。ケアリング論の観点から情意評価を読む研究は、国内の体育ではほとんど見当たらず、ここは空白である。
- 賛否の並置について:公表直後のため、学会誌・専門誌の論考はまだない。『体育科教育』等の特集が出た段階で、本記事末尾に追記する。
補足:領域名は、どの段で何に変わるか(資料編 保体⑭)
2026年10月10日に追記しました。公開時には資料編の図を確認できていませんでしたが、態度の整理と同じ節で示されている図(保体⑭「運動領域等の学習の系統性の改善イメージ」)が確認できたので、ここに載せます。以下はこの図に書かれていることの整理です。

三つの段
図の最上段に、三つの段が横並びで示されています。小学校1年から4年までが「各種の運動の基礎を培う時期」、小学校5年から中学校2年までが「多くの領域の運動を経験しスポーツの基礎に触れる時期」、中学校3年から高等学校卒業までが「卒業後も運動やスポーツに多様な楽しみ方で豊かに関わることができるようにする時期」です。図の下の「改善の方向性」には、次のように書かれています。
発達の段階を踏まえ、引き続き大きく4年ごとのまとまりで捉える(同時に、子供の発達はなめらかで連続的であることにも留意)
保体⑭「改善の方向性」
赤字になっているところ
図の領域名のうち、赤い字で書かれているものが変更箇所です。赤字になっているのは、小学校3・4年の六つの領域すべて(体つくりの運動遊び、器械・器具を使っての運動遊び、走・跳の運動遊び、水遊び、表現リズム遊び、ゲーム)、中学校1・2年の四つ(陸上運動、水泳運動、表現運動、ボール運動)、そして「スポーツ理論」です。同じ中学校1・2年の列でも、体つくり運動・器械運動・武道は黒のままです。
ここから読み取れる変化は二つの向きを持っています。小学校3・4年は、現行の「器械運動」「走・跳の運動」等から、低学年と同じ「運動遊び」の名称へと延びます。中学校1・2年は、現行の「陸上競技」「水泳」「ダンス」「球技」から、小学校高学年と同じ「○○運動」へと戻ります。競技の名前が領域名に出てくるのは、中学校3年からです。
実線と点線
図の右端に小さな凡例があり、実線の枠が「必修」、点線の枠が「選択」を表しています。中学校3年以降で実線で囲まれているのは、体つくり運動とスポーツ理論の二つです。器械運動・陸上競技・水泳・ダンス・球技・武道は点線で囲まれています。
各段階における趣旨
- 小1〜4:「運動遊び」を通して全ての児童の「好き」「楽しい」「やってみたい」等の気持ちを丁寧に育て、運動やスポーツに親しむ心身の基礎を豊かに育む
- 小5〜中2:運動技能も含めた子供たちの状況等が一層多様化し、いわゆる「運動嫌い」という認識が発生しやすい段階ということを踏まえ、ルール等を簡易なものとした「運動」を通した学びを基本として整理し、全ての児童生徒が安心して楽しく運動に取り組むことができる機会を一層保障する
- 中3〜高3:「運動やスポーツを主体的に選択すること(自己選択)」「生涯スポーツの多様な楽しみ方に触れること(社会との接続)」「豊かな生涯の実現に向けた自分にとっての運動やスポーツの楽しみ方を考えること(豊かなスポーツライフの設計・実現との関わり)」を基本的な考え方として、卒業後も運動やスポーツを多様に楽しむ資質・能力を育成
なお、この図には「※ 具体的な指導内容は更に検討」との注記が付されています。領域名についても、資料編の別の図(保体⑱)では「ボールを使っての運動遊び(仮)」のように(仮)が付されています。確定した名称として読まないほうがよい段階です。
まとめ
- 公正・協力等の「態度」に関する要素は、「運動との関わり方」として整理され、知識及び技能を中心に置き直される方向が示された。
- 「する・みる・支える・知る」は、改正スポーツ基本法の「集う」「つながる」を加えて「多様な楽しみ方」と整理された。語が変わったのではなく、名前の指す相手が入れ替わった。
- 愛好的な態度は「運動やスポーツの多様な楽しみ方を目指す態度(仮称)」として、「学びに向かう力、人間性等」に残る。態度が消えるわけではない。
- 評価の具体は決まっていない。まとめ自身が「更に検討」と書いている。
- 体育の「態度」の話は、全教科共通の学習評価の見直しと対で読む必要がある。
出典
- 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日) 掲載ページ/第1・2部PDF/第3部(2)PDF(資料編・保体①〜㉗)
- 教育課程部会(第136回・令和8年10月5日)配付資料 該当ページ
- 教育課程部会 体育・保健体育、健康、安全ワーキンググループ 該当ページ
本記事のページ番号は、PDFに印字されたページ番号です(PDFのページ番号から1を引いた数にあたります)。審議まとめは取りまとめられた確定文書ですが、答申・告示はこれからです。文書に「〜とする」と書かれていても、制度として確定したものではありません。


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