このとき学生に渡した準備ガイドの公開版(18ページ)を、記事の後半に置いています。
演習の授業で、手応えのあった回がありました。学生の議論が明らかに動いた回です。ただし、これは二度目の試みでした。一度目は、思うように進まなかったからです。何を変えたらそうなったのかを、順に書いておきます。
一度目は、進まなかった
このゼミでは、他大学のゼミと合同で開く会で、模擬授業を発表することになっています。テーマはあらかじめ設定されています。学生がやるのは、そのテーマにどう接近するかを決めて、授業の形にしていくことです。
最初の回では、この問いをそのままグループに渡しました。設定されたテーマに、自分たちはどう近づくか。考えるに値する問いですし、これを考えること自体が演習のねらいでもあります。
けれども、思うようには進みませんでした。議論するには、問いが大きすぎたのだと思います。どこから手をつけるかが決まらないまま、話が抽象的なところを回り続ける。アイデアは出ても、次に何をすればよいのかにつながらない。そういう時間になりました。
そこで、二度目にあたる今回、渡し方を変えました。
やったこと:決めることを並べて、手順のほうを渡した
用意したものは二つです。ひとつは準備ガイド。本番までの進め方をまとめたスライドで、ゼミのたびに該当するページを開いて使います。もうひとつはチームごとの共同編集のドキュメントで、決めたことと各自の宿題をそこに書きためていきます。
ガイドに入れたのは、次のようなものです。
- ゴール。本番の時間、場所、何を仕上げるか。動かせない条件を最初に示す
- 全体の見通し。体育館が使えるのは4回だけ、という逆算の表
- 決めることリスト。本番までに決める項目を並べ、「中身」「授業」「運営」の三つに分けて、それぞれ締切の目安を付けた
- 話し合いのフローチャート。「考える→試す→直す」を回す図。試して「ねらいに迫れたか」で分岐し、迫れなければ前の段階に戻る
- チーム内の役割。1人1役の一覧と、準備期間の仕事・当日の動き
- 毎回の進め方。90分を、確認・話す試す・共有・決める、の4つの段階に割る
- 迷ったときに立ち返る問い。子どもにとって面白いか、ねらいに迫る動きが生まれるか、全員が参加できて安全か
そして、毎回のゼミで決めることを一つずつ埋めながら話し合ってもらいました。決めたことはその場でドキュメントに書き、次の回の最初に読み上げて確認する。役割も、初回にその場で決めさせました。
ここで渡したのは、決める項目と順番と締切だけです。中身はひとつも決めていません。どの教材を選ぶか、どう改良するか、対象を何年生にするかは、すべて学生が決めます。
起きたこと:議論が動き、学生の側から提案が出た
話し合いは、明らかに活発になりました。いろいろなアイデアが出て、グループの中で意見が交わされていました。授業の後には、学生のほうから「こういうアイデアなんですが、どうですか」と聞きに来る場面が何度もありました。
提案の中身は、まだ詰めるところがあります。それでも、自分の意見を持って相談に来るというのは、演習ではいちばん見たい形です。この日は、それが起きました。
なぜ効いたと考えるか:選択肢を狭める
効いたのは、選択肢を狭めたことだと考えています。一度目に渡したのは「テーマにどう接近するか」という問いで、これは広すぎました。二度目に渡したのは、その問いに近づくための手順です。
プロジェクト形式の授業では、学生に全部考えさせるほうが主体的に見えます。何が必要かを自分たちで洗い出すところから始めさせる。けれども実際には、そこで止まります。何を話し合えばよいのかが分からないまま時間が過ぎて、結局、声の大きい人の案に乗って終わる。そういう場面を何度も見てきました。
今回は、こちらで先に枠組みを作りました。何を決めるのか、どういう順で決めるのか、誰がどの役割を持つのか。話し合いの中身ではなく、話し合いの手順のほうを渡したということです。
枠を渡すと考える余地がなくなるのではないか、という疑問はもっともです。ただ、この日に減ったのは「何から手をつければいいのか分からない」という時間のほうでした。中身については、こちらは何も決めていません。決めることの一覧があるだけです。埋める言葉は学生が出しています。
準備をどう用意したか
正直に書くと、このカードを一から手で作る時間はありませんでした。授業と事務の重なる日が続いていて、補助資料を人の手だけで用意するのは難しい状況でした。
そこで、生成AIと相談しながら作りました。決めることの並べ方を試し、項目を増やしたり減らしたりして、使える形にしていきました。作ったものを見てこちらが直す、という往復ができるので速い。授業の最中に、グループの進み具合を見ながら項目を足すこともできました。
ただ、これはこちらに「何を出したいのか」があるときに効く使い方だと思っています。この回で何を決めさせたいのかが自分の中にあるから、出てきた案を見て違うと判断できる。そこが空のまま頼むと、それらしいものが出てきて、それらしいまま授業に持ち込むことになります。舵は自分で取る。その前提での速さです。
学生の文章に目を通すときの下読みにも使いました。これも、最終的に何を返すかはこちらが決めます。
使った準備ガイド(公開版)
このとき学生に渡した準備ガイドの公開版です。18ページあります。大学名や会の名称、人数など、特定につながる部分は外してあります。テーマと日程はそのままにしてあるので、逆算の組み方が分かると思います。


















まとめてご覧になる場合は、こちらからどうぞ。 準備ガイド(公開版・PDF)
筆者の見方
ここからは私の意見です。
演習で学生が動かないとき、原因を意欲に求めたくなります。やる気がない、受け身だ、と。けれども今回の経験からすると、動かない原因の多くは、手順が見えていないことのほうにあると思います。手順が見えれば、意見はもともと持っているものが出てきます。この日に学生から提案が出たのは、提案してよい場所と順番が分かったからではないでしょうか。
もう一つ。枠組みを作ることは、教師の仕事を減らす方向には働きません。何を決めさせるかを先に考えておく必要があるので、準備はむしろ増えます。今回それが回せたのは、作る作業の部分を道具に任せられたからです。準備を省くための道具ではなく、準備の密度を上げるための道具として使うほうが、授業には効くのだと思います。
この形は続けてみるつもりです。次の回で、学生が自分たちで次の項目を作れるようになるかどうかを見ます。枠を渡し続けるのか、どこかで外すのか。外すとしたら何を目印にするのか。そこはまだ決めていません。


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