次期学習指導要領は、どこへ向かうのか|三つの軸で外枠を読む

次期学習指導要領は、どこへ向かうのか。三つの方向性=主体的・対話的で深い学びの実装、多様性の包摂、実現可能性の確保。 2030改訂編

次期学習指導要領は、何を、どちらへ変えようとしているのか。教科ごとの話に入る前に、改訂全体の外枠を押さえておきたい。この記事は、2026年10月5日に教育課程部会が取りまとめた「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」の第1部を、三つの軸で整理したものです。

三つの軸とは、①この文書が現代の社会をどう記述しているか、②これまでの改訂がどう積み重なってきたか、③そのうえで大枠としてどう動くと決まったか、です。

本文は、文書に書かれていることの整理です。筆者の評価や解釈は入れていません。引用はすべて原文で、審議まとめの印字ページ番号を添えています。

次期学習指導要領に向けた検討の基盤となる考え方。あらゆる方策を活用し、三位一体で具現化。①主体的・対話的で深い学びの実装(Excellence)、②多様性の包摂(Equity)、③実現可能性の確保(Feasibility)の三つが循環し、多様な子供たちの「深い学び」を確かなものにして、生涯にわたって主体的に学び続け、多様な他者と協働しながら、自らの人生を舵取りすることができる民主的で持続可能な社会の創り手をみんなで育む、という構図。土台に、学びをデザインする高度専門職としての教師、デジタル学習基盤をはじめとする基盤整備、総合的な勤務環境整備が置かれている。
今回の改訂を一枚で示した図。①深い学びの実装、②多様性の包摂、③実現可能性の確保を三位一体で進める。出典:文部科学省「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」資料編(令和8年10月5日)1-2-1「次期学習指導要領に向けた検討の基盤となる考え方 ~あらゆる方策を活用し、三位一体で具現化~」(印字403ページ)。該当ページを切り出して掲載した。クリックで拡大します。

この一枚が、今回の改訂の骨格です。①深い学びの実装、②多様性の包摂、③実現可能性の確保。この三つを三位一体で進める、というのが結論にあたります。以下では、ここに至る三つの軸を順に読んでいきます。

この記事の要点

  • 検討は、令和6年12月の文部科学大臣諮問から始まった。
  • 文書は社会の現状を、少子化・高齢化、分断・対立、AIによる産業構造の変化として記述している。数字では、2040年に1100万人の労働者が不足、2050年に生産年齢人口の割合が50%程度に低下、という推計が引かれている。
  • 現行改訂(平成29〜31年)の成果としてPISA2025で3分野すべてOECD加盟国中1位を挙げ、同時に「理念や趣旨の浸透は道半ば」と書いている。
  • 大枠は三つの方向性に整理されている。①「主体的・対話的で深い学び」の実装、②多様性の包摂、③実現可能性の確保。
  • この三つは、注でexcellence/equity/feasibilityと国際語に置き換えられている。
  • 三つを総括する言葉は「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」。文書はこれを「今次改訂の全体像を的確に理解するための共通理念」と位置づけている。

読む資料

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)。全体は第1部・第2部・第3部(資料編)からなり、PDFは4分割で公表されています。この記事が読むのは第1部です。

章題印字ページ
第1章子供たちを取り巻く社会や学校の現状と展望3
第2章次期学習指導要領に向けた基盤となる考え方6
第3章「深い学び」を実現するための分かりやすく使いやすい学習指導要領12
第4章多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程29
第5章「余白」の創出を通じた教育の質の向上54
第6章豊かな学びに繋がる学習評価61
第7章情報活用能力の抜本的向上と質の高い探究的な学びの実現71
第8章次期学習指導要領の趣旨を実現するために必要な方策77
第1部の章立て(審議まとめ 目次より)。第2部は各学校段階・各教科等の改善、第3部は資料編。

以下、軸1は第1章、軸2は第1章と文部科学省の改訂一覧、軸3は第2章と第3章の冒頭にあたります。

軸1 文書は、いまの社会をどう記述しているか

第1章は【①社会・経済の動向】と【②学校現場の状況】の二つに分かれています。冒頭で、この検討が「令和6年12月の文部科学大臣諮問から始まった」こと、そして「これからの我が国を担う子供たちは、激しい変化が止まることのない時代の中で、学校教育を受け、その後の人生を生き抜いていくことになるという想定の下で進められてきた」ことが述べられます。

社会・経済の動向

深刻さを増す少子化・高齢化は、学校教育のみならず、我が国の社会や経済のあらゆる側面に影響を及ぼしている。グローバル情勢は、協調・競争のみならず、分断・対立の様相を深めつつあり、混迷の度を増している。気候変動等に伴い、自然災害は激甚化し、予測困難性も高まっている。

審議まとめ 第1部 第1章(印字p.3)

就業構造の変化は、人材需給のミスマッチとして書かれています。「AI・ロボットの普及等に伴って産業・就業構造は大きく変化し、事務・販売・サービス分野では人材の余剰が生じる一方、AI・ロボット等を活用して新たな価値を創出する専門的・技術的人材が不足する」。そこに「2040年に1100万人の労働者が不足する、2050年には生産年齢人口が占める割合が50%程度に低下するとの推計もある」と数字が置かれます。

人生の側では、「教育ー雇用ー引退という単線型の人生モデルから、転職やリスキリング・副業などを含む、マルチステージの人生モデルへの転換が進む」とされ、「今後の社会を生きる子供たちは、より長い人生において、より多くの『人生の場面転換』と向き合う」と続きます。ここから出てくるのが、この文書を通じて繰り返される「自らの人生を舵取りする力」という言葉です。

デジタル化については、一方向に振れない書き方がされています。

こうした取組がデジタル一辺倒に陥ることは避けるべきであり、「デジタルの力も使ってリアルな学びを支える」との基本的な考えに立つ必要がある。五感を通じた体験や身体性、芸術やスポーツを通じた豊かな心身の育成の価値を今一度認識し、AI時代にこそ重要となる、人間ならではの力を育むことを教育課程全体で強く意識する必要がある。

審議まとめ 第1部 第1章(印字p.3)

章の締めくくりには、ウェルビーイングが置かれています。「多様な個人が幸せや生きがいを感じ、地域や社会全体でも幸せや豊かさを享受できる、調和と協調を重視する日本社会に根差したウェルビーイングの向上に繋がるようにすることが必要である」。

民主的で持続可能な社会という枠

社会の多様化は、人の移動と人口構成の両面から書かれます。「国民が国外に出て行く機会も増える一方、少子・高齢化に伴う労働力人口の下押し圧力が続く中、外国人労働者の受け入れも進み」、その結果「我が国の社会全体の多様性が増している」。そのうえで、「孤立や分断を招くことのない、秩序ある共生社会の実現に向けて、公教育が果たす役割を考えていくことも一層重要になっている」とされます。

デジタル技術の負の側面は、民主主義の問題として名指しされています。「いわゆる『フィルターバブル』『エコーチェンバー』といった現象が指摘される中で、SNSを介した偽・誤情報の拡散や価値観の偏りの助長、AIが人間の認知や意思決定に与える影響の拡大などが民主主義社会の分断を招きかねない課題も顕在化させている」。

第1章の社会記述は、次の一文に収束します。

当事者意識を持って自分の意見を形成しつつ、異なる価値観を持つ多様な他者の主張や感情を受け止め、対話と合意を重ねながら、問題を発見・解決できる、「民主的で持続可能な社会の創り手」を育てる必要性がこれまで以上に高まっていると言える。

審議まとめ 第1部 第1章(印字p.3)。注で、教育基本法第1条が「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」を備えた国民の育成を教育の目的としていることと「深く関わる」と述べられている。

学校現場の現状 成果と、三つの課題

【②学校現場の状況】は、現行学習指導要領の説明から始まります。「『社会に開かれた教育課程』を理念に掲げ、全ての教科等を『知識及び技能』、『思考力、判断力、表現力等』、『学びに向かう力、人間性等』という三つの資質・能力の柱で整理し、『何を学ぶか』だけではなく、『何ができるようになるか』を明確化するとともに、『どのように学ぶか』の重要性を強調し、『主体的・対話的で深い学び』の視点からの授業改善の必要性を示した」。

成果としては、PISAが挙げられます。「2025年には調査開始以来初めて3分野(科学コンピテンシー、数学的リテラシー、読解力)全てでOECD加盟国中1位となるなど、世界トップクラスの成果を上げた」。そのうえで「今後の社会を展望したとき、様々な課題も顕在化していることに目を背けるわけにはいかない」として、課題が三点に整理されます。

一点目は、現行学習指導要領の実装に関わる課題。「習得した知識を現実の事象と関連付けて理解すること、AI時代だからこそ不可欠となる概念としての知識や深い意味理解を伴う知識を習得すること、自分の意見や考えを持ち、根拠に基づいて他者に明確に説明すること等に依然として課題が見られる」。データとしては、PISAで「低位層が2〜3割程度存在する」こと、「PISA2025では習熟度の低い生徒の割合の増加がみられる」こと、社会経済的背景(SES)と正答率・スコアの相関、SNSや動画視聴の時間が長いほどスコアが低い傾向が挙げられます。さらに、「習熟度の高い生徒の割合が高い一方、学習へ積極的に関与(好奇心、忍耐力、自己調整)している生徒の割合が低い」という指摘。結論は、「3つの資質・能力の柱の一体的育成を目指した現行学習指導要領の理念や趣旨の浸透は道半ばである」。

二点目は、多様性の包摂に関わる課題。不登校児童生徒、様々な障害や認知特性のある児童生徒、外国人児童生徒等、特定分野に特異な才能のある児童生徒、経済的に厳しい環境にある児童生徒。「現行の教育課程の仕組みや指導の在り方を維持したままで、こうした課題に対応することは困難である」と書かれます。ここには踏み込んだ表現もあります。「我が国の社会及び教育の積年の課題でもある『正解主義』や『同調圧力』への偏りから脱却する」。

三点目は、教育課程の実施に伴う負担。「教師の努力と熱意に対して過度な依存をすることはできず、教育課程の実施に伴う負担への指摘に真摯に向き合うことが必要である」。令和6年8月の中央教育審議会答申と、給特法等一部改正法(令和7年法律第68号)に基づく勤務環境整備、教師の養成・採用・研修に係る検討との整合性を持たせる、と明記されています。

つまり第1章は、社会の変化だけでなく、現行の理念が十分に届いていないこと、子供の多様化に現行の仕組みでは対応できないこと、教師の負担に向き合わなければならないことの三つを、改訂の出発点として置いています。

軸2 これまでの改訂は、どう積み重なってきたか

審議まとめの第1部は、過去の改訂史をさかのぼっては書いていません。現行の平成29〜31年改訂と、その実装状況だけを扱います。そこで、この節は文部科学省が公表している改訂の一覧と並べて置きます。

改訂全面実施(小/中/高)その改訂の特徴として挙げられているもの
昭和33〜35年昭和36/37/38年度教育課程の基準としての性格の明確化、道徳の時間の新設、系統的な学習を重視
昭和43〜45年昭和46/47/48年度教育内容の一層の向上(「教育内容の現代化」)、算数における集合の導入等
昭和52〜53年昭和55/56/57年度ゆとりある充実した学校生活の実現=学習負担の適正化、中核的事項に絞る
平成元年平成4/5/6年度社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成、生活科の新設、道徳教育の充実
平成10〜11年平成14/14/15年度「生きる力」の育成、教育内容の厳選、「総合的な学習の時間」の新設
平成15年(一部改正)—学習指導要領のねらいの一層の実現、個に応じた指導の例示に習熟度別指導や補充・発展学習を追加
平成20〜21年平成23/24/25年度授業時数の増、指導内容の充実、小学校外国語活動の導入
平成27年(一部改正)平成30/令和元年度道徳の「特別の教科」化
平成29〜30年令和2/3/4年度資質・能力の三つの柱、社会に開かれた教育課程の実現、小学校外国語科の新設
出典:文部科学省「学習指導要領の変遷」。おおむね10年に一度の周期で改訂されてきたことが分かる。次期改訂は全面実施が小学校令和10年度からの予定。

今回は、どこに接続しているか

この表の最後の行、平成29〜30年改訂が、今回の直接の前提です。審議まとめは、三つの資質・能力の柱も、「主体的・対話的で深い学び」も、「社会に開かれた教育課程」も、否定していません。評価の言葉は一貫して「浸透は道半ば」です。

たとえば「深い学び」については、こう書かれます。「経験豊富な教師にとっては自然と志向するものであるものの、多くの教師にとっては、各教科等の具体の文脈の中でイメージを掴み取りにくいとの指摘もあり、学校現場への浸透は道半ばであると言える」。つまり理念の誤りではなく、理念が学習指導要領の書き方として十分に可視化されていなかったという診断です。第3章はこの診断を引き継いで、現行の記載の課題を二点に整理しています。資質・能力の「深まり」が可視化されていないこと、複数の柱の「一体的育成」が可視化されていないこと。その結果として起きていることとして、「教科書『を』網羅的に教える授業や『本時主義』といった授業づくりからの脱却に至らない」という表現が出てきます。

表の鍵語を並べると、昭和52年に「学習負担の適正化」、平成10年に「教育内容の厳選」、平成20年に「授業時数の増」、平成29年に「資質・能力の三つの柱」と変わってきたことが分かります。次期改訂で何が鍵語になるのかが、次の軸3です。

軸3 大枠として、どう動くと決まったか

第2章の表題が、そのまま答えになっています。「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものにするための3つの方向性」。

三つの方向性

生涯にわたって主体的に学び続け、多様な他者と協働しながら、自らの人生を舵取りすることができる、民主的で持続可能な社会の創り手を「みんな」で育むため、①「主体的・対話的で深い学び」の実装 ②多様性の包摂 ③実現可能性の確保 の3つの方向性を踏まえて学習指導要領の改善を行う。これらの3つの方向性に基づく改善は、教育課程内外のあらゆる方策を用いつつ、三位一体で具現化されるべきものである。

審議まとめ 第1部 第2章(印字p.6)

この三つには、注で国際語が与えられています。「今後一層重要となる教育分野の国際対話で通用性のある表現として、『主体的・対話的で深い学び』の実装により実現される質の高い教育は『excellence』、公正性は『equity』、実現可能性は『feasibility』と総括することができる」。

①「主体的・対話的で深い学び」の実装

出発点は、AIの普及によって「知識の取り出しや大量の情報の整理・分析などはAIに代替されつつある」という認識です。そのうえで「個別の知識の集積に止まらない概念としての習得や深い意味理解、それらを通じた知識の構造化や問題意識の醸成」の重要性が高まっている、とされます。

具体策として名前が挙がるのは、構造化・表形式化・デジタル化による「分かりやすく使いやすい学習指導要領」、学習の自己調整と学習方略の指導、学習評価、質の高い探究的な学び、そして「小学校『情報の領域』や中学校『情報・技術科』の創設をはじめとする情報活用能力の抜本的な向上」です。

第3章では、次期の「深い学び」が定義し直されています。「個別の『知・技』、個別の『思・判・表』について、一体的に育成しつつ、それらの統合的な理解や総合的な発揮を促す学びのプロセス」。この「統合的な理解・総合的な発揮」という一組の語が、各教科の記載を組み替える仕掛けになります。文書はこれを「優れた教師の理解を全ての教師の共有財産とするもの」と説明しています。

②多様性の包摂

「不登校児童生徒、様々な障害や認知特性のある児童生徒、外国人児童生徒等、特定分野に特異な才能のある児童生徒、社会経済的に厳しい環境により学習上の制約を受ける児童生徒など、子供たちの多様性は過去と比較して格段に顕在化しており、現行の教育課程の仕組みや指導の在り方のみでは、全ての子供たちに『深い学び』を実現し、必要な資質・能力を育成することは困難と言わざるを得ない」。

ただし、包摂は困難への対処としてだけ書かれているわけではありません。「多様性の包摂そのものが教育上の価値を有するという視点も重要である」として、ルールの見直しや環境の調整、それに伴う対話や合意という「試行錯誤そのものが、民主的で持続可能な社会の創り手を育てる上で大きな価値を有する」と述べ、「多様性を個人及び社会の力に変えるという発想に立ち」と書いています。

制度としては、調整授業時数制度の創設、高等学校の単位制の大幅な柔軟化、不登校児童生徒や特異な才能のある児童生徒に係る特別の教育課程、個に応じた学習過程の充実、心理的安全性の確保が挙げられています。

③実現可能性の確保=「余白」

三つ目は、①と②を実際に回せるようにするための条件です。「教師と子供の双方に教育課程上の『余白』を創出する」。注で、余白とは「多様な子供たちの深い学びを実現するための時間的余裕」を意味すると定義されています。

余白をつくる手段として並ぶのは、構造化に伴う内容の精選、調整授業時数制度の創設、教科書の精選、単元ベースでの授業設計の推進、授業時数や週当たりコマ数の適正化・平準化、カリキュラム・マネジメントによる「手段の目的化の防止」や「形骸化した取組の見直し」です。さらに、デジタル学習基盤の充実、教科書と教材の役割分担、指導書の改善、入学者選抜の改善、「変化が激しい学習内容について過度な負担を避ける観点からの国による授業動画の作成・提供」、設備の整備、勤務環境整備まで含めて、「改訂全体に通底させるべき方向性」とされています。

三つの方向性は、どこに具体化されるのか

ここまでの三つを、教科や活動の単位まで下ろした図もあります。細かいですが、自分の教科がどこに置かれているかを探すのに使えます。

次期学習指導要領の全体像。「主体的・対話的で深い学び」の実現を通して、自らの人生を舵取りする力と民主的で持続可能な社会の創り手を育成する。「好き」を育み「得意」を伸ばすことと、当事者意識を持って自分の意見を形成し対話と合意ができることを掛け合わせ、総合、各教科等、特別活動、道徳の四つで具体化する。幼児教育における遊びの深まりを土台に置き、下段に多様な子供たちの深い学びを確かなものにするための方策が並ぶ。
詳細版。出典:文部科学省「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」資料編(令和8年10月5日)1-2-2「『主体的・対話的で深い学び』の実現を通した 自らの人生を舵取りする力と民主的で持続可能な社会の創り手の育成」(印字404ページ)。該当ページを切り出して掲載した。クリックで拡大します。

AI時代に、知識を持つ意義

第2章(2)は、「AIがどのような質問にも応じたり、大量の情報を効率的に整理・分析したり、問題の解決策も提案できるようになっている」ことを踏まえ、知識を持つ意義を四点に分けて述べています。AIへの指示や問いは人間が出すこと、AIの出力の正誤や妥当性を見極めるには知識の基盤が要ること、アルゴリズムが社会に与える影響を理解する必要があること、そして「先人が営々と積み重ねてきた『知の体系』を発達段階を踏まえて次世代に継承し、更なる発展を期することは学校教育の不易である」こと。結論はこう書かれます。

AIの発展により、知識そのものの価値が下がったというのは適当ではなく、意味理解を伴わない丸暗記や、定型的な知識の当てはめ、知識の量だけを過度に競うような評価の在り方等の価値が一層低下したと捉えるべきである。

審議まとめ 第1部 第2章(印字p.8)

そのうえで「確かな知識」という語が定義されます。「こうした過程による認知的な努力を通じて身体化(記号接地)された知識でもある」。

両輪と、共通理念

第2章(3)は、育てたい姿を「自らの人生を舵取りすることができる民主的で持続可能な社会の創り手」と置き、そこへ向かう両輪として「『好き』(興味・関心)を育み、『得意』を伸ばす」と「当事者意識を持って、自分の意見を形成し、対話と合意ができる」の二つを挙げます。この二つの関係も書かれています。「『好き』を育み、『得意』を伸ばし、その子らしい個性が伸長され、自分なりの意見や観点を持つようになれば、多様な他者と当事者意識を形成し、対話や合意をする必然性が生まれてくる。逆に、対話や合意に特化した学習活動を行おうとしても、普段から自分なりの意見や主張、それらを効果的に他者に伝える経験を積んでいなければ、円滑に進まない」。

そして、三つの方向性の総括。

こうした①〜③の方向性を端的に総括すると、「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」と言える。この考え方は、これまでの審議を牽引する考え方として機能してきたところ、引き続き、次期学習指導要領に向けた基盤となる考え方として、過去に例のない広範な観点を含む今次改訂の全体像を的確に理解するための共通理念である。

審議まとめ 第1部 第2章(印字p.7)

「過去に例のない広範な観点を含む」という自己評価が置かれている点は、この文書の性格を示しています。

体育は、この外枠のどこに置かれているか

第1部に、体育という語はほとんど出てきません。出てくるのは、デジタル一辺倒を戒める文脈の「五感を通じた体験や身体性、芸術やスポーツを通じた豊かな心身の育成の価値を今一度認識し、AI時代にこそ重要となる、人間ならではの力を育む」という一節です。体育・保健体育の具体は第2部第2章(印字p.262〜273)に置かれ、そこで目標の在り方、「運動との関わり方」への再整理、4年ごとの時期区分、技能水準の見直しが扱われます。

体育の節で使われている語も、第1部と同じものです。態度の要素を「知識及び技能」を中心に整理し直す際に使われるのは「統合的な理解・総合的な発揮」という第3章の語であり、小学校5年から中学校2年で「ルール等を簡易なものとした『運動』」を基本とする説明に出てくるのは、いわゆる「運動嫌い」という認識が発生しやすい段階という、第1章と同じ多様性の問題意識です。2年間のまとまりで計画するという記述は、第5章の「余白」に対応する語で書かれています。なお、体育の節のどの記述が三つの方向性のどれに当たるかを、文書自身が対応表として示しているわけではありません。

論文や原稿の冒頭で使える一文

研究の文章では、緒言の最初の数文で「いまの社会をどう捉えるか」を書くことが多くあります。その際に、審議まとめの原文をそのまま引けるように、ここまでに出てきた一節を出典つきで並べておきます。必ず一次資料に当たってから使ってください。以下のページ番号は、第1・2部PDFの印字ページです(PDFビューアのページ番号は1つ大きくなります)。

  • 社会の不確実性:「深刻さを増す少子化・高齢化は、学校教育のみならず、我が国の社会や経済のあらゆる側面に影響を及ぼしている。グローバル情勢は、協調・競争のみならず、分断・対立の様相を深めつつあり、混迷の度を増している。気候変動等に伴い、自然災害は激甚化し、予測困難性も高まっている。」(p.3)
  • 人材需給のミスマッチ:「AI・ロボットの普及等に伴って産業・就業構造は大きく変化し、事務・販売・サービス分野では人材の余剰が生じる一方、AI・ロボット等を活用して新たな価値を創出する専門的・技術的人材が不足する」/「2040年に1100万人の労働者が不足する、2050年には生産年齢人口が占める割合が50%程度に低下するとの推計もある」(p.3)
  • 育てたい姿:「当事者意識を持って自分の意見を形成しつつ、異なる価値観を持つ多様な他者の主張や感情を受け止め、対話と合意を重ねながら、問題を発見・解決できる、『民主的で持続可能な社会の創り手』を育てる必要性がこれまで以上に高まっている」(p.3)
  • 身体性の価値:「五感を通じた体験や身体性、芸術やスポーツを通じた豊かな心身の育成の価値を今一度認識し、AI時代にこそ重要となる、人間ならではの力を育むことを教育課程全体で強く意識する必要がある」(p.3)
  • 現行改訂の評価:「3つの資質・能力の柱の一体的育成を目指した現行学習指導要領の理念や趣旨の浸透は道半ばである」(p.4)
  • 改訂の大枠:「①『主体的・対話的で深い学び』の実装 ②多様性の包摂 ③実現可能性の確保 の3つの方向性を踏まえて学習指導要領の改善を行う」/注「質の高い教育は『excellence』、公正性は『equity』、実現可能性は『feasibility』と総括することができる」(p.6)
  • 知識の位置:「AIの発展により、知識そのものの価値が下がったというのは適当ではなく、意味理解を伴わない丸暗記や、定型的な知識の当てはめ、知識の量だけを過度に競うような評価の在り方等の価値が一層低下したと捉えるべきである」(p.8)

まだ決まっていないこと

審議まとめは答申ではありません。文部科学省が示しているスケジュールでは、中央教育審議会の答申が冬頃、告示が年度末の予定とされています。全面実施は小学校が令和10年度から、中学校が令和12年度から、高等学校が令和13年度から(令和14年度の入学生から順次)、幼稚園等が令和16年度からの予定です。

第1部の記述も、確定した条文ではありません。各教科の具体的な内容は第2部で方向性が示されている段階で、体育・保健体育についても、評価の具体や領域名には「更に検討」「(仮称)」が付されています。この記事で引いた語も、告示までに変わる可能性があります。

意見を出せる期間

この審議まとめについては、すでにパブリックコメントの受付が始まっています。2026年10月6日14時に受付が開始され、締切は11月5日23時59分です。e-Govの案件番号は185001511、所管は文部科学省初等中等教育局教育課程課で、インターネットの意見提出フォームから出す形になっています。告示案の段階でも、冬ごろに改めてパブリックコメントが実施される予定です。

案件ページ:「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」に関するパブリック・コメント(意見公募手続)の実施について(e-Gov)。意見を出す前に、意見募集要領と命令などの案の全部を確認するよう案内されています。

出典

  • 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日) 掲載ページ/第1部・第2部 PDF
  • 文部科学省「学習指導要領の変遷」 PDF(関連ページ)
  • 文部科学省「次期学習指導要領の改訂に向けた今後のスケジュール(イメージ)」(令和8年10月5日版、教育課程部会第136回 参考資料7) PDF

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