一節 #006 です。前回(#005)は、現行が公正・協力・責任・参画・共生・健康・安全を「運動やスポーツの価値」と呼び、目標の(3)「学びに向かう力,人間性等」に置いていることを読みました。今回は、その要素が取りまとめ(案)でどこへ移されようとしているかを読みます。
タグ:目標/態度
今回の一節
そこで、態度に関わる要素について、「なぜそうするのか」に関わる概念的な知識や「何であるか」に関わる事実・内容に関する「知識」の面、さらに実際の行い方に関わる「技能」の面に着目し、「知・技」を中心に再整理することで、児童生徒の本質的な理解につながる着実な「指導」につなげるとともに、指導事項に係る「評価」の改善を図る。
体育・保健体育、健康、安全WG取りまとめ(案)p.6「4. 内容の改善の在り方①(1)内容の充実について」【審議段階:2026年7月10日 第11回WG 資料1-3】
この「そこで」の前に、課題が二つ挙げられています。一つは、公正に取り組もうとしているといった意思的な部分の指導と評価が、行動の意義の理解を伴わない形式的なものになりかねないこと。もう一つは、体育独自の扱いと、他教科と共通の二側面(「粘り強さ」と「自己調整」)から見取る要素とが混在して、教師にとって分かりにくいことです【審議段階】。
ただし、態度がすべて移るわけではありません。同じページに、もう一つの書き分けがあります。
「愛好的な態度」は、「する」「みる」「支える」といった運動やスポーツの「多様な楽しみ方」を目指す姿を一層積極的に価値づけることにつなげる観点から、「運動やスポーツの多様な楽しみ方を目指す態度(仮称)」と示し、「学びに向かう力・人間性等」に引き続き位置付ける。
同 p.6【審議段階】
ひとこと:割れ目は、スポーツの内と外のあいだにある
#005 で読んだとおり、現行では公正・協力・責任・参画・共生・健康・安全が「運動やスポーツの価値」と呼ばれ、目標の(3)に置かれていました【原文】。案では、この要素が「知・技」を中心に再整理され、「運動との関わり方」という名前で扱われます【審議段階】。一方で「愛好的な態度」は名前を変えて(3)に残ります【審議段階】。つまり、態度がまるごと別の柱へ引っ越すのではなく、二つに割れる、というのが案の書き方です。
(ここからは私の解釈です)この割れ方を見ていると、その手前にもう一つの分岐があるように思えます。公正や協力を、スポーツを楽しむための手段として見るなら、それはスポーツの枠組みの内側にあるものです。一方、スポーツから学ばれ、社会生活を営むために必要な要素として見るなら、それは枠組みの外側にあるものになります。案は、前者にあたる「愛好的な態度」を(3)に残し、後者にあたる要素のほうを「知・技」へ動かした、という形に見えます【審議段階】。分割の基準そのものは案に書かれていないので、これは私の読みです。ただ、もしここで内と外の線が引かれたのだとすると、割れ目の意味は、指導と評価のしやすさの話だけにはとどまらないように思います。
気になるのは、外側の要素を知識や理解として位置づけたときに何が起きるかです。知識の形になったものは、それが問われる場面で有利にふるまうための資源にもなります。公正とは何かを説明できることと、公正にふるまうこととは別のもので、前者のほうが見えやすい。見えやすいほうだけが扱われていくと、態度は利害のために使われ、その分だけ質を落としていくことがありうると思います。案は「知・技」を中心に再整理するとしか書いておらず、それをどう評価するかには触れていません【審議段階】。ですからここから先は、起こりうることの話です。ただ、どこに置くかを決めることは、その後どう扱われるかをある程度決めてしまう面もあると感じます。
もう一つ、技能として書けるものなのか、という疑問も残ります。たとえば、知り合いでもない誰かの感情に共感することは、利害の外にあるはたらきです。それを技能として記述すると、「相手や状況をこうしたいから、私はこのスキルを使う」という構えが一緒に入ってきます。その構えが、関係のあり方として適切なのかどうか。相手を自分の目的の対象として扱わないところで成り立っているものを、目的と手段の言葉で書き直すと、別のものに変わってしまうかもしれません。もっとも、話を最後まで聞く、負けた相手に声をかけるといった振る舞いの水準は、教えられますし、教えないと入り口に立てない子もいます。私が引っかかるのは、そこまで下ろせる水準と、下ろした時点で別のものになる水準とが、同じ「知・技」という箱に一緒に入っていることのほうです。
#004 で見たように、「関わり方」という語は案の中で複数の意味で使われていました。態度の要素がその名前を受け取ったことで、語の重なりはもう一段進んだことになります。整理という言葉の手ざわりが、読むほど軽くなくなってきます。
追記(2026年10月10日) この回で読んだのは、2026年7月10日のワーキンググループ取りまとめ(案)です。その後、10月5日に教育課程部会が「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」を取りまとめ、ここで読んだ語の整理は確定版に引き継がれました。確定版での書かれ方と、公正・協力等の要素がどこへ移るのかは、態度の在り処|審議まとめの体育(令和8年10月5日)で整理しています。
読者への問い
ゲームの最後に「今の判定、どう思った?」と聞く場面を思い浮かべてください。あの問いかけは、公正という態度を育てているのでしょうか、それとも公正が何であるかという知識を教えているのでしょうか。案の言い方だと後者に寄りますが、子どもの側ではどう受け取られているでしょうか。これが正しいというのはありません。その是非について、あなたなりの意見を持つことが大事だと思います。
もう一つ。仲間が落ち込んでいるときに声をかける、あの行いは、技能として教えられるでしょうか。教えられるとしたら、どこまでが技能で、どこからは技能では届かないところでしょうか。
次回の一節 #007 では、案が「新たな『学びに向かう力・人間性等』」としてどんな要素を並べているかを読みます。
出典
- 文部科学省「体育・保健体育、健康、安全ワーキンググループ 取りまとめ(案)」(2026年7月10日 第11回WG 資料1-3)p.6 PDF
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 体育編」p.69 PDF


コメント