模擬授業をいきなり課すのは、子どもにいきなりフルゲームをやらせるのと同じです。
教職課程の演習科目で、2人1組の模擬授業に取り組む回があります。その模擬授業に入る前に、「教材とは何か」を扱う回を置いています。この記事では、その回をどう設計したかを書きます。実際に使っているレポート様式とルーブリックは、記事の最後に置いておきます。そのままお使いいただいて構いません。
いきなり模擬授業をやらせない

模擬授業をいきなり課すと、うまくいかなかったときに、何が原因だったのかを本人が絞れません。計画の段階だったのか、実施の段階だったのか。課題の構造だったのか、教材の配列だったのか、教材に含まれる内容の読み取りだったのか。問題の所在があまりにも多く、拡散してしまいます。それでは、やった本人にとっていい経験になりません。
これは、子どもにいきなりフルゲームをやらせるのと同じ構図だと思っています。コートも人数も正規のまま、ルールも手を加えずに試合をさせれば、動ける子だけが動いて、何が学ばれたのかは誰にも見えません。体育では、だから教材をつくります。学ばせたい内容に合わせて、ゲームの条件を変える。それなら、模擬授業という課題そのものにも同じ考え方を当ててよいはずです。
そこで、段階を分けています。まず典型教材を選んで理解する。次に単元計画・指導案・評価計画をつくる。続いてルーブリックをつくる。模擬授業は、そのあとです。この進め方は、ここ2、3年かけて少しずつ形にしてきたものです。
典型教材から始める
最初の段階で扱うのが、典型教材です。理論から入るのは、学生にとってやはり難しい。ですから、すでに実践の場で確かめられてきた安定した成功例から入って、経験を通して教材の概念をつかんでもらう、という順にしています。
授業では「典型教材を学ぶ」と「典型教材から学ぶ」の両方だと説明しています。しくみを学ぶこと(なぜこのルールなのか、なぜこの人数なのか)、実践を学ぶこと(先生たちが実際に授業で確かめた教材であること)、そして自分で使えるようになること(目の前の生徒に合わせて工夫すること)。この三つです。
ただし、注意書きを一つ添えています。典型教材は手堅いやり方の一つではありますが、体育における万能薬ではありません。ここを外すと、「よい教材を持ってくれば授業はうまくいく」という話になってしまいます。
この回で選ばせた典型教材
具体を書いておきます。ここで言う典型教材とは、岩田靖が大修館書店から出している3冊に収められている教材例のことです。『体育の教材を創る』(2012年)、『ボール運動の教材を創る』(2016年)、『体育の学習内容の探究』(2024年)の3冊で、いずれも書誌は末尾の参考文献に挙げています。授業では、ここから25種類を一覧にして示し、ペアごとに別の教材を選んでもらっています。
- アルティメット
- ゲットボール
- スクエアセストボール
- スマッシュゲーム
- スローイングゴルフ
- セイフティーエリアバスケットボール
- セイムゴール走
- セーフティエリアタッチビー
- センタリングサッカー
- ダイヤモンドシュートゲーム
- ダブルコートシュートゲーム
- ダブルゴールサッカー
- ダブルバウンドテニス
- トライアングルシュートゲーム
- ドライブバスケットボール
- フィルダーキックベースボール
- フラッグフットボール(2実践)
- フリーシュートサッカーゲーム
- ブレイクベースボール
- フロアボール(2実践)
- ミニテニス
- ワンドリブルバスケットボール
- ワンバウンドバスケットボール
- 集団リズムマット
- 並びっこベースボール
一つ、中身を開いてみる アルティメット
名前が並んでいるだけでは、何が「典型」なのかは伝わりません。授業でも例を一つ開いて見せています。アルティメットの場合、主なルールはこうです。1チーム4人。ディスクはパスだけでつなぐ。エンドゾーン内でキャッチすると1点。エンドゾーンに守備は入れない。守備は体に触れない(パスカットのみ)。
そして、この教材で学ばせたいことは「ディスクを持っていないときに、パスを受けられる位置へ動いてキャッチする」ことです。ルールの一つ一つが、そこに結びついています。4人のチームにするのは、一人一人がプレーに関わる機会を多くするため。パスだけでつなぐのは、「受ける動き」が必要になるようにするため。守備が接触しないのは、安心して受ける動きに挑戦できるようにするためです。
なぜこのルールなのか、なぜこの人数なのか。典型教材を読み解くというのは、この対応関係を一つずつたどる作業です。前の節で「典型教材を学ぶ」と「典型教材から学ぶ」の両方だと書いたのは、こういう意味です。
選び方
選ぶ手順も決めてあります。まず教材の資料をざっと見る。タイトルとルールと図が中心です。次にペアで相談して、やってみたい教材を3つに絞る。そのうえで第1希望から第3希望までを出してもらい、重なったら調整します。
選ぶときのヒントとして、四つ示しています。生徒に何を学ばせる教材かがわかるか。体育館やグラウンドで実際にできるか。中学生・高校生ならどう変えるか。そして、自分たちが「やってみたい」と思えるか。
なお、各教材の実践記録そのもの(配布しているPDF)は、他の方が作成されたものですので、ここには掲載していません。元になっているのは、上に挙げた3冊です。
スポーツは「素材」、教材はつくり変えたもの

この回は、「サッカーは体育の教材ですか」という問いから入ります。2分間、考えてもらう。理論の説明はそのあとです。
スポーツはそのままでは素材であって、特定の視点から加工・改変し、再構成したものが教材である。その視点が二つあります。一つは内容的視点で、「学習内容」が明確かどうか。知識・認識(わかる)、技術・戦術(できる)、社会的行動(関わる)の三つで考えます。もう一つは方法的視点で、「学習意欲」を喚起できるかどうか。学習機会の平等性、能力の発達段階や興味・関心、プレイ性の確保の三つです。
内容的視点のほうは、「この教材は〇〇を学ぶためにある」と言い切れるかどうか、と言い換えています。

二つの視点は、しばしばぶつかる

授業では、サッカーの「対面パス練習」を例に出します。内容的視点から見れば、学ぶことは明確です。止めて蹴る。しかも試行回数が多い。けれども方法的視点から見ると、興味や関心を引き出しにくい。片方の視点では優れていて、もう片方では苦しい。そういう教材は珍しくありません。
ですから、二つの視点の両方で教材を見ます。万能の教材はないし、まったくダメな教材もない。意図した学習に、内容と難しさが合っているかどうか。見るべきはそこだ、という話をしています。
ゲームをどう修正するか

ボール運動の教材づくりでは、ソープら(1986)のゲーム修正の考え方を紹介しています。正規のルールで行うフルゲームがあり、そこから二方向の修正がある、という整理です。
一つは発達適合的再現で、発達段階に応じて難度を下げるために競技環境を修正するもの。もう一つは誇張で、学習させたい戦術的な課題がはっきり現れるように競技環境を修正するものです。そして、その両方を効かせて、難度を易しくしつつ学習内容に焦点を置いたゲームにしたものが教材になります。誇張の例としては、ゴール型での2対1のミニゲームが挙げられます。人数を削ることで、ドリブルかパスかの状況判断が前面に出てきます。
修正の観点は二つあると説明しています。発達段階による調整と、学ばせたい要素による調整です。用具やルールに手を入れるとき、自分がどちらをやっているのかを意識してほしい、ということです。
あわせて、教材がめざす三つの易しさも扱います。必要な技能の易しさ、分かり易さ、仲間との関わり易さ。条件を変えることで、動きや認識を学びやすくする、という見方です。
具体例として挙げるのがアルティメットです。1チーム4人、ディスクはパスだけでつなぐ、エンドゾーン内でキャッチすると1点、守備はエンドゾーンに入れない、守備は体に触れない。この条件で何が学ばれるかというと、ディスクを持っていないときに、パスを受けられる位置へ動いてキャッチすることです。4人であることで一人ひとりがプレーに関わる機会が増え、パスだけでつなぐことで「受ける動き」が必要になり、接触がないことで安心して受ける動きに挑戦できる。ルールの一つひとつが、学ばせたいことに結びついています。
レポートは、ルールを書くところから

この回の後半で、学生はペアで典型教材を一つ選び、レポートに取り組みます。様式は四つの項目でできています。教材名と対象学年、教材のルール、内容的視点、方法的視点です。
最初に書かせるのはルールです。人数とチーム、コート(これは図で描く)、用具、ゲームの始め方と再開、得点の仕方、攻撃と守備のきまり。授業では、こう言っています。ルールが書けないということは、まだ教材を理解できていないということです。
ここを第一関門にしたのには理由があります。教材の分析は、やろうと思えば抽象的な言葉だけでも進められてしまいます。「協力が学べる」「楽しく運動できる」と書けば、分析をした形にはなる。けれども、読んだ人がそのままゲームを再現できるところまでルールを書き切ろうとすると、分かっていない箇所が自分で見えてきます。
内容的視点の欄は、わかる・できる・関わるの三つに分けて、具体的な動きや行動として書いてもらいます。方法的視点の欄は、三つの観点それぞれについて、教材のどのルールや工夫が当てはまるのかを挙げてもらいます。どちらも、教材のルールと結びつけて説明できるかどうかが要になります。
ルーブリックは、レポートの項目に対応させる
ルーブリックは3観点×3点の9点満点です。観点は「ルールの理解」「内容理解」「学習意欲」の三つで、それぞれレポートの第2項目、第3項目、第4項目にそのまま対応しています。レポートの様式とルーブリックの観点がずれていると、学生はどこを評価されるのか分からないまま書くことになるので、一対一で対応させています。
たとえば「ルールの理解」の3(十分満足できる)は、「読んだ人がそのままゲームを再現できる」としました。2(おおむね満足できる)は、主なルールは正確だが一部が抜けていたり曖昧だったりして再現には補足が必要なもの。1(努力を要する)は、誤りや大きな抜けがあって再現できないもの。再現できるかどうか、という一つのものさしで三段階を書いています。
「内容理解」と「学習意欲」の3には、どちらも「さらに」で始まる一文を足しています。学習内容を観点ごとに書けているだけでなく、それが教材のどのルールや工夫によって学ばれるのかまで説明できているか。ルールと結びつけられたかどうかを、2と3の分かれ目に置きました。
使える形で置いておきます
この回で使っているレポート様式とルーブリックを、ダウンロードできる形で置いておきます。PDFのほかにWord形式も用意しました。ご自身の授業に合わせて書き換えてお使いください。科目名は外してあります。
なお、学生に配布している典型教材そのものの資料と、授業で見せている参考動画は、他の方が作成されたものですので、ここには掲載していません。
当日のスライド
この回で使ったスライドの公開版です。本文で触れた図も、ここに含まれています。
































スライドのデータそのもの(PowerPoint形式)が必要な方は、お問い合わせからご連絡ください。個別にお送りします。ご自身の授業で使いやすいように、中身を書き換えていただいてかまいません。
次回は、やってみてどうだったか
ここまでが計画です。実際にやってみると、計画どおりにいかないところが出てきます。学生が教材という概念で物事を見るのは、思っているより難しいのではないか。この回を終えて、いまのところそう感じています。
提出されたレポートを読んだうえで、実施・ふりかえり編を書きます。どこでつまずいたのか。レポートからどんな傾向が見えたのか。そして、ここで公開したルーブリックは、実際に採点してみて機能したのか。配って終わりにせず、使ってみた結果まで書くつもりです。
参考文献
- 岩田靖(2012)『体育の教材を創る 運動の面白さに誘い込む授業づくりを求めて』大修館書店
- 岩田靖(2016)『ボール運動の教材を創る ゲームの魅力をクローズアップする授業づくりの探究』大修館書店
- 岩田靖(2024)『体育の学習内容の探究 よい教材づくりのための知識・技術を掘り起こす』大修館書店
- Thorpe, R., Bunker, D., & Almond, L. (1986) Rethinking Games Teaching. University of Technology, Loughborough.
- 文部科学省(2017)『中学校学習指導要領解説 保健体育編』
この記事は「教員養成講座」シリーズの一本です。シリーズの趣旨はこちらのページにまとめています。


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