自信は、ひとりでは育たない|教育実習における教師としての自信の変容過程―教育実習生4名のナラティヴから―

自信は、ひとりでは育たない — 教育実習生4名の「教師としての自信」ライフライン 2020年〜2024年

教育実習で「教師としての自信」は高まるのか。質問紙で前後を比べれば、たいてい「高まった」という平均値が出ます。しかし、その3週間のあいだに実習生一人ひとりの自信がどこで上がり、どこで落ち、何がそれを動かしたのかは、平均値には写りません。この論文は、4名の実習生に「教師としての自信」の推移を1本の線で描いてもらい、その線の曲がり目を語りで埋めていったものです。

著者は栗田昇平と浜上洋平(ともに大阪体育大学)で、『大阪体育大学教育学研究』第6巻(2022年)に事例報告として掲載されました。本ブログ運営者自身の論文です。体育系大学の4年生4名(中学校2名、高等学校2名、いずれも3週間の実習)を対象に、ライフライン・インタビュー法を援用した半構造化面接を行い、ナラティヴ・アプローチの立場から自信の変容過程と、それに影響を与えた要因を描いています。

この記事の要点

  • 4名中3名は実習を通じて「教師としての自信」を高め、1名は維持傾向だった。自信は【授業】【生徒】【学校・教員組織】に関わる出来事から影響を受けながら、獲得と喪失を連続させていた。
  • 「教師としての自信」は個人の内側で育つものではなく、生徒や指導教員との関わり、学校・教員組織の受容的な風土という関係性のなかで生起する。私がこの論文でいちばん言いたかったのはこの点で、当たり前のようでいて、明文化しておく必要がある。
  • 実習生の授業の「成功」は、指導教員の一言で決まる傾向があり、実習生自身は生徒が盛り上がったかどうかで成否を判断しがちだった。その先の学習成果を見る視点を、実習に出る前に大学と実習校で共有しておきたい。そして学生には、不安を消すのではなく準備に変えてほしいと私は思っている。

詳しい検討は 著者コメント に書いています。

研究の背景・目的

教育実習は、教職志望学生にとって数少ない現場経験であり、そのわずかな経験をもって学生は教育現場に出ていきます。3週間で教師としてのアイデンティティを確立したり、決定的な実践的能力を身につけたりすることは明らかに困難です。では、教育実習で学生は何を獲得すればよいのか。著者らは、様々な教育場面で望ましい教育的行為をとることができるという「自信」に着目しました。

「教師としての自信」は、主に教師効力感の研究として扱われてきました。Banduraの自己効力感理論を教師教育に応用したもので、「子どもや発達に対して肯定的な効果をもたらす教育的行為をとることができるという教師の信念」と定義されます。教職志望学生を対象とした研究も多く、教育実習の前後で教師効力感が高まることも報告されています。一方で、こうした質問紙による研究では時間の連続性が考慮されないため、実習内のどの活動や出来事がどう関連して自信の獲得や喪失につながるのか、その過程は明らかにできません。平均値である要素の有無を論じることは、個々の学生のストーリーに確かに存在する「成長」や「失敗」の意味づけを捨象してしまいかねない、と著者らは述べます。

実習を通じた自信の変化は「獲得するか」「喪失するか」の二者択一ではありません。分水嶺となる出来事は何か、実習生はどのような過程で実習を過ごし、出来事を意味づけ、自信につなげていくのか。本研究の目的は、教育実習における「教師としての自信」の変容プロセスを明らかにし、それに影響を与える要因を明らかにすることです。

方法

対象は、体育系大学で教育実習を経験した4年生4名です。人数は安田・サトウの「1・4・9の法則」を援用し、4名を「経験の多様性を描くことのできる」人数として設定しました。実習生A・Bは中学校、C・Dは高等学校で、いずれも3週間。実習中の体育授業の回数はAが30回、Bが9回、Cが9回、Dが14回で、保健や道徳を担当した者もいます。

データ収集は半構造化面接で、1回目が45〜58分、2回目が15〜25分です。理論的枠組みはナラティヴ・アプローチで、2つ以上の出来事を結びつけて筋立てることで生まれる「意味」を取り出すことを分析の視座としています。語りを引き出すためにライフライン・インタビュー法(LIM)を用い、「教育実習を通じた『教師としての自信』の変化を次の図に線を引いて描き出してください」と依頼して、横軸に1〜3週目、縦軸に自信の高低、中央に標準線を置いた用紙に自由に線を描いてもらいました。そのうえで、なぜそう描いたのかを聞き取っています。

分析は分析的帰納法による概念化で、ナラティヴに触れるなかで生起した仮説に対して矛盾的・否定的なケースを探しながら仮説を精錬し、意味のまとまりを「概念」、その多様性を示すものを「下位概念」としました。妥当性の確保にはメンバー・チェックを行い、暫定的な解釈を実習生本人に確認しています。

結果

実習生A:受容的な雰囲気のなかで上がり続けた線

実習生Aの線は、開始当初は標準線よりやや低く、開始後に標準線を跨いで上昇し、小さな低下を挟んで、以降は実習の終わりまで上がり続けました。開始前の不安は、荒れていた頃の母校のイメージから来る中学生への不安と、苦手種目バレーボールを担当する不安でした。後者に対しては、3週間分の指導案を実習前に作り終えるという対応をとっています。不安は初日に体育担当教員と学級担任に出会って解消されていきます。「本当に優しいというか、安心感がある先生方」。実際の中学生に触れると「素直で、ちゃんと悪いことしたら謝れる子ばっかり」で、自分が受け入れられていると感じることが自信を高めました。

その後を後押ししたのは「子どもたちの関わりと、教員の関わりがすごい励みになった」という二つの関わりです。3週目のプール掃除で生徒の「意外な一面」を見られたことが居心地の良さにつながり、体育担当教諭からは「あんまり怒るとか、そういうことは実習生なんやし……黙らせるぐらいやったら、目で語ることできると思うから」という、実習生の立場を考慮して自信を持たせようとする指導を受けています。授業への指導の大半は肯定的で「授業を行う度に自信を高めていくことができた」と語り、職員会議への参加や生徒への連絡を任されたことも自信のきっかけになりました。

実習生B:行事に挟まれ、二度落ちた線

実習生Bは、4名のなかで唯一、顕著に向上したわけではなく、維持傾向でした。開始時の自信の高さは教員採用試験に合格していたことによるもので、「『よっしゃ、先生』って感じでいけたから、最初の方が高かったかもしれんです」。実習校はコロナ禍で行事が秋に集中し、体育祭、試験期間、合唱祭が実習と重なって、授業で生徒と関わる機会を確保しにくいスケジュールでした。

1週目後半からの低下は、保健の予定が急遽、道徳の授業に変わったことによる不安でした。「ほんまに自分のこの授業でいけるのかなっていうのは……ありましたね。もうひたすら友達と空いてる時間に控え室で練習したりとか」。この道徳の授業に担当教員から肯定的な評価を受け、大学で習ったシッティングバレーに生徒が肯定的に反応したことで持ち直します。3週目の低下は、急遽割り当てられたソフトボールの授業でした。当該校では例年ベースボール型の授業がなく、用具が全員に行き渡らず、ICT活用というテーマも課され、この授業だけ男女共修という多重の困難のなかで、「自分的にはやっぱまだまだやなって。逆にちょっと自信なくなるぐらい」と語っています。最後の持ち直しは、10日ほどの練習で合唱祭に向かう生徒の姿と、管理職からの「子どもが何でも相談してくるような先生はやっぱ必要やし……今回の実習見ててそういう姿が先生は見られた」という言葉でした。

実習生C:進路への迷いから、授業への慣れへ

実習生Cの開始時の低さは、年齢の近い高校生への接し方の不安と、高校教師になるという決断への迷いでした。大学に入る前は高校教師を志望していたものの、大学で学ぶうちにその進路に疑問を持つようになり、部活指導も含めて務めきれるかという不安があったといいます。1週目は行事練習で授業がほとんどなく、休み時間や掃除、ホームルームで生徒と関わり、大学での様子や受験のことを話す機会を契機に生徒から声をかけられるようになって、自信は徐々に上がります。

2週目中盤の低下は教科指導の困難さでした。1年生女子のバスケットボールで指示を出しても動かない、反応が薄いといった出来事から「自信をなくす」と語り、保健では「妊娠と出産」という難しい領域を任され、担当領域が2週目の最初に決まったため準備時間も不足していました。2週目終盤からの回復は「慣れてきた。耐性もついてきたのと、大体こういう感じで進めて、おおまかな流れが分かってきて」という慣れと、3年生の授業で良い反応が返ってきた成功経験、そして「子どもともだいぶ関係性ができてきて。ちょっと余裕が出てきて、楽しいなって思えるようになってきて」という関係の安定によるものでした。

実習生D:信頼関係のある母校で、落ちずに上がった線

実習生Dの線は、実習中に低下を見せることなく上昇しました。開始時は「ほんまに授業するのが嫌で」「(高校生が)しゃべってくれるのかなって思った。コミュニケーションとるのが苦手で」と、授業と生徒への不安が先行していましたが、1週目木曜の保健の授業で生徒から肯定的な評価を得て、授業後の簡易アンケートの回答の多くが肯定的だったことで自信が上がり始めます。

その後を支えたのは、高校時代の部活指導に携わり卒業後も連絡を取り合っていた担当教員との厚い信頼関係と、居心地の良い教員組織でした。担当教員は「『これ授業、受けて楽しい?』みたいなやり取りから始まって……『こうした方が楽しいよ』みたいなことを言われたりしました」と、常に肯定的なフィードバックを返し、2週目の研究授業では管理職がA4用紙いっぱいに良かった点を書いてくれています。「即戦力と言われた」「すぐに実習校で働きたい」という言葉からは、実習校への愛着も窺えます。母校が中高一貫の私立校で、中学時代の教員が残っていたことも背景にあると著者らは見ています。

ナラティヴから生成された概念

4名の語りから生成された概念は、「授業」「生徒」「学校・教員組織」「その他」に分類され、それぞれ「自信の獲得」と「自信の喪失」に分けられました。授業では、獲得に【授業に対する肯定的な評価】【授業での成功経験】【授業準備への注力】、喪失に【授業実践に対する不安】【授業での失敗経験】。生徒では、獲得に【生徒との関わり】【生徒集団への被受容感】、喪失に【生徒に対する不安】(下位概念に[ヤンチャなイメージ][大人しいイメージ])。学校・教員組織では、獲得に【実習先の受容的雰囲気】【教員組織への被受容感】【学校行事への関与】【教師としての肯定的な評価】が挙がり、喪失に分類される概念はありませんでした。その他として【進路に対する決意】と【進路に対する迷い】が1名ずつに見られました。

考察のポイント

「授業」と「生徒」の概念は、教師効力感研究の「教授・指導効力感」「子ども理解・関係形成効力感」の因子と見解を一致させています。一方で、教師効力感研究には「学校・教員組織」からの影響を織り込む因子がなく、逆に本研究では「学級管理・運営効力感」に当たる概念が生成されませんでした。後者は、実習が3週間の短期間で、教科指導や生徒指導に主眼が置かれるためだと考えられます。

授業の成功・失敗の実感は、「生徒が精力的に取り組んでくれるか」「授業が盛り上がったか」といった「学習の勢い」や「雰囲気」に該当するものが多く、長期・短期の学習成果への言及は少数でした。また、4名中3名で、教師や生徒からの肯定的な評価が成功経験を導いており、他者からのフィードバックによって成功を実感するケースが多く見られました。本研究では「他者からの否定的な評価」が見られず、この点が多くの実習生の自信を高めた要因でもあったと考えられます。【授業実践に対する不安】は主に実習前に抱かれ、直接【授業での失敗経験】につながるケースはなく、むしろ【授業準備への注力】を促すケースが2名に見られました。不安や自信の喪失が必ずしもネガティブに働くわけではなく、学習を促す契機になり得るという点です。

【生徒との関わり】については、日常的な場以上に、体育祭準備やプール掃除といった【学校行事への関与】の貢献が大きかったことを2名が語っており、教育実習に対する学校行事の意義への示唆となります。そして【実習先の受容的雰囲気】は【教員組織への被受容感】につながり、教師からの【授業に対する肯定的な評価】を得やすくし、それが【授業での成功経験】にもつながる。学校・教員組織、生徒、授業の各概念は互いに関与し合いながら実習生の自信に影響を与えていました。このことは、教師としての自信が個人内で生起するものではなく、集団や他者との関係性のなかで生起するものであることを示唆しています。

まとめ

結論として、4名中3名が実習を通じて「教師としての自信」を高め、1名は維持またはやや向上傾向にあったこと、自信は【授業】【生徒】【学校・教員組織】に関する出来事から影響を受けながら獲得と喪失を連続させること、その変容は個人内で完結せず、他者との関わりや評価、学校や教員組織の集団的雰囲気や風土という社会的世界のなかで発生すること、そして各概念が相互に関与し合っていることが示されました。課題としては、4名という対象の多寡、学校段階・規模・地域の多様性を踏まえた蓄積、そして教師として数年勤務した後に実習を意味づけ直す長期的視点の調査が挙げられています。実践への示唆として、不安や失敗経験を乗り越えるための指導指針を大学と実習校で共有すること、自信の変容が社会的世界のなかで生じるという認識のもとに実習環境を整備すること、そして実習先の教員と授業を評価する視点を事前に共有し、実習生が多様な視点で授業の成否を検討できるようにすることが提案されています。


著者コメント

まず、この論文を書いた理由

私がこれを書いたのは、教育実習の前後で教師効力感を測る研究に、課題意識を感じたからである。平均が上がったと言われても、実習中の浮き沈みやその理由が潜んでいる。実際に、4名の線図を並べてみると、上がり続けた者、二度落ちた者、途中で一度沈んだ者がいて、その曲がり目には毎回、具体的な出来事があった。

次に、いちばん言いたかったこと

教師としての自信は、個人の内側で育つものではない。実習生Dの線が一度も落ちなかったのは、Dが強かったからではなく、信頼関係のある担当教員と、A4用紙いっぱいに良かった点を書いてくれる管理職がいたからだ。実習生Bの線が二度落ちたのは、Bが弱かったからではなく、行事に挟まれ、急な道徳の授業とソフトボールの授業を割り当てられたからだ。自信は関係性の中で生起する。当たり前のようでいて、この当たり前を明文化しておく必要はある。

そして、現場の先生と学生へ

実習生を受け入れる先生に伝えたいことは、実習生の授業の「成功」は、あなたの一言で決まる傾向がある、ということだ。4名中3名が、先生からの肯定的な評価によって「成功」を実感していた。それは裏を返せば、実習生が自分の授業を自分の目で評価できていないということでもある。何で褒め、何を指摘するかで実習生の授業に対する目線も変わる。生徒が盛り上がったかどうかで授業の成否を考える傾向は、実習生に限らず、若い教師にも私自身にもある。生徒の反応が気になるのは道理だが、その先の学習成果を見る視点を、実習に出る前に大学と実習校で共有しておきたいと思った。

学生には、不安は悪いものではない、と言いたい。この論文の実習生は、不安があったから3週間分の指導案を先に書き、控え室で友達と道徳の練習をした。不安を消そうとするより、不安を準備に変えてほしいと思う。


元論文情報

  • タイトル:教育実習における教師としての自信の変容過程―教育実習生4名のナラティヴから―
  • 著者:栗田昇平、浜上洋平
  • 掲載誌:大阪体育大学教育学研究、第6巻、65–83頁(事例報告)
  • 発行年:2022年2月(2022年1月8日受付、2月8日受理)
  • 著者の研究者情報:researchmap

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