同じ競争でも、仲間が支えるかどうかで別物になる|Measuring Peer Influences on Supporting and Thwarting Needs and Their Influence on Student Resilience, Grit, Engagement, and Motivation in Physical Education

2025年〜2029年

体育の授業で誰の影響がいちばん大きいかと問われれば、多くの人は教師と答えるでしょう。しかし思春期に入った生徒にとって、態度や参加の仕方をかたちづくっているのは、隣で一緒に動いている同級生のほうかもしれません。この論文は、その同級生のふるまいを「支援」と「阻害」の両面から測る尺度をつくり、それが生徒のやり抜く力や授業への没入とどう結びつくかを、1,439名のデータで検討したものです。

スペインのアルメリア大学のRuben Triguerosらが2026年にJournal of Teaching in Physical Education誌に発表した研究です。自己決定理論(SDT)の対人行動質問紙(IBQ)を体育の文脈に翻案し、従来の自律性・有能感・関係性に加えて「新奇性(novelty)」を第四の欲求として組み込んだ点が、この研究の新しいところです。

この記事の要点

  • 仲間のふるまいを自律性・有能感・関係性・新奇性の4欲求×支援/阻害の8次元で測る尺度が成立し、支援はエンゲージメント・グリット・レジリエンス・内発的動機づけを正に、阻害は負に予測した。とくに有能感の支援が、レジリエンス(β=.43)とグリット(β=.44)に強く効いていた。
  • 私が読み取ったのは、競争関係それ自体が悪なのではない、ということである。比較する機会が動機づけにつながるかどうかは、その中に支援的な文脈があるかどうかで決まる。体育で競争を避けるか否かという二択の議論は、問いの立て方を間違えている。
  • 他方で、レジリエンス・グリット・エンゲージメント・内発的動機づけを一度に並べて扱う研究の進め方には留保が残る。変数を増やすほど、社会文化的な文脈の影響は包括的になり、輪郭を失っていく。

詳しい検討は 専門家コメント に書いています。

研究の背景・目的

世界保健機関の報告では、世界の青少年の81%が十分な身体活動をしていないとされます。体育はその改善の場として期待されてきましたが、授業の中で何が生徒の動機づけを左右するのかを考えるとき、これまで研究の焦点は教師と保護者に当てられてきました。思春期には仲間集団の比重が他の社会化要因を上回るにもかかわらず、仲間のふるまいを生徒がどう知覚しているかを測る道具がなかった、というのが著者らの出発点です。

枠組みは自己決定理論です。人には自律性・有能感・関係性という三つの基本的心理欲求があり、社会的環境はそれらを支援することも阻害することもできる。近年これに、日常のルーティンから外れた経験をしたいという「新奇性」を第四の欲求として加える研究が現れています。著者らは、Rocchiら(2017)の対人行動質問紙を体育の仲間関係に翻案し、新奇性の支援・阻害を測る項目を新たに開発したうえで、それがエンゲージメント、グリット、レジリエンス、内発的動機づけとどう関連するかを検討しました。

なお著者らは、仲間からの支援が乏しいことと、欲求が阻害されることは同じではないと明確に区別しています。関わりが少ない、助言がない、興味を顧みられないのは「支援の欠如」であり、阻害が起きるのは、強制や威圧、排除、あるいは技能を示そうとしたときに失敗をあげつらうといった行為があるときだ、という整理です。

方法

対象はスペイン・アルメリア県の中等学校の生徒1,439名(男子688名、女子751名、12〜19歳、平均15.03歳)です。尺度の検証のために標本を無作為に二分し、探索的因子分析に719名、確認的因子分析に720名を用いています。保護者の同意を得たうえで、体育授業の開始前に質問紙に回答させました。

新奇性の項目は、デルファイ法で作成されました。自己決定理論の専門家3名が新奇性の定義に関する設問に回答し、そこから12項目(支援6・阻害6)を起草。研究グループ外の2名が代表性・独自性・明確さを検討し、「新しい技能の獲得を助けてくれる」といった、有能感と重なりうる項目は削除されました。最終的に支援4項目・阻害4項目が残り、既存の24項目と合わせて32項目の尺度(IBQ-Peers)となっています。原版で「コーチ」とされていた表現は「クラスメート」に置き換えられました。

関連づける変数としては、体育授業におけるレジリエンス尺度(25項目)、体育グリット尺度(16項目)、授業エンゲージメント尺度(24項目、感情的・行動的遵守・行動的努力・認知的・離脱の5因子)、内発的動機づけ(知覚された因果の所在尺度の4項目)が用いられ、相関分析と重回帰分析が行われています。

結果

8因子の構造が支持された

探索的因子分析(KMO=.94)と確認的因子分析の適合度は良好で(χ²/df=2.09、CFI=.97、TLI=.97、RMSEA=.050、SRMR=.037)、標準化係数は0.70〜0.81でした。自律性・有能感・関係性・新奇性それぞれの支援と阻害からなる8因子構造が支持され、判別妥当性の分析からも、各因子は互いに重ならない別個の構成概念であることが示されています。信頼性はα=.79〜.85でした。

支援は正に、阻害は負に予測した

重回帰分析では、レジリエンス(R²=.411)、グリット(R²=.557)、エンゲージメント(R²=.453)、内発的動機づけ(R²=.478)のいずれについても、支援が正、阻害が負の関連を示しました。ただし、すべての因子が一様に効いていたわけではありません。

  • レジリエンスに効いたのは有能感の支援(β=.43)がほぼ単独で、自律性の支援と関係性の支援は有意ではなかった。
  • グリットでも有能感の支援(β=.44)が最も強く、新奇性の支援(β=.16)と自律性の支援(β=.11)が続いた。
  • エンゲージメントでは自律性の支援(β=.37)が最も強く、有能感(β=.17)、関係性(β=.11)、新奇性(β=.10)が続いた。
  • 内発的動機づけでは有能感の支援(β=.36)、自律性の支援(β=.16)が強く、新奇性の阻害(β=−.12)も負に効いた。

考察のポイント

著者らは、動的な環境で他者を観察し学ぶ機会があることで、活動がルーティン化・単調化せず、持続的な動機づけが促されると述べます。新奇性は動機づけの引き金にすぎず持続要因ではないという主張もあるが、体育のように変化と挑戦が本来的に含まれる文脈では、新奇性が社会的環境のなかに繰り返し現れることで関心と長期的な関与が強まりうる、という立論です。

もう一点、仲間集団は挑戦的でありながら支援的な環境を提供しうるとされ、他者と自分を比較する機会は、支援的な文脈のなかでは、優れた成果へ向かう動機づけになると論じられています。教育的な含意として著者らが挙げるのは、競争的な側面を脇に置き、集団の凝集性と生徒同士の相互作用を促す協同的な活動を設計することです。

限界としては、横断的デザインのため因果推論ができないこと、生徒による仲間の知覚のみを測っており自分自身が仲間としてどうふるまっているかは測っていないこと、自己記述式質問紙のため関連の背後にある理由まで取り出せないことが挙げられ、縦断研究の必要が述べられています。

まとめ

仲間のふるまいを、支援と阻害の両面から、しかも新奇性を含む4欲求で測る道具ができた。そして、支援はやり抜く力や授業への没入と結びつき、阻害はそれを削る。とくに有能感の支援が、困難を乗り越える力に強く効いていた。授業の中で誰が誰を支えているかは、これまで教師の目には見えにくい部分でしたが、この尺度はそこに測定可能な形を与えています。


専門家コメント

まず、素直に頷いたところ

他者と比較する機会は、支援的な文脈のなかでこそ優れた成果へ向かう動機づけになる、と論じた箇所に、私は「競争関係が悪なのではなく、その中に支援的な文脈があることが重要」と書いた。ここがこの論文でいちばん受け取るべき点だと思う。体育では長く、競争をどう扱うかが論点になってきた。勝ち負けが子どもを傷つける、だから競争を減らす、という話の運びは今も根強い。しかしこの結果は、競争そのものを問題の在り処とは見ていない。比較の場に支援があるかどうか、つまり失敗をあげつらわれるのか、それとも次の一手を一緒に探してもらえるのかで、同じ競争が別のものになる。避けるか受け入れるかではなく、どういう文脈に置くかが設計の対象である。

新奇性の扱いにも「よい。刺激をもたらす」と書いた。動きが単調になったとき、子どもの動機づけが落ちるのは現場の実感と合う。そこに、仲間が新しい関わり方や予期しない挑戦を持ち込むことで刺激が生まれるという説明が加わると、教師が場を用意するだけでなく、子ども同士がその役割を担いうることになる。仲間を、指導の対象ではなく環境の一部として見る視点である。

次に、疑問が残ったところ

その新奇性について、私は「好奇心のような要素?」とも書いている。日常のルーティンから外れた経験をしたいという欲求は、好奇心とどこが違うのか。項目の作成過程では、有能感と重なる項目が慎重に外されている。しかし好奇心との区別は、この論文では正面から論じられていない。第四の欲求として立てる以上、既存の概念とどう切り分けるのかは、もう少し聞きたかったところである。

もう一つ、レジリエンス、グリット、エンゲージメント、内発的動機づけを一度に並べる進め方について、「複数の諸要素の包括的探究が流行している」と書いた。一本の研究で扱う構成概念が増えるほど、示されるのは関連の網の目になる。そして「社会文化的な文脈の影響は包括的になる」。ここで言いたかったのは、変数を足すほど説明は広く行き渡るが、その分だけ、どの文脈で何が起きているのかという輪郭がぼやけるということだ。スペインの中等学校という具体的な場の手触りは、8因子と4つの結果変数の係数表からは戻ってこない。著者らが限界として挙げる横断デザインの問題は、因果が言えないという方法上の話にとどまらず、この輪郭の薄さと地続きである。

そして、私自身が考えたこと

仲間が革新的なアプローチや予期せぬ挑戦を持ち込むという記述の横に、私は「予期できないことの重要性」と書き、さらに「創発性に関する重要性と接続するだろうな?」と続けた。授業の中で価値ある出来事の多くは、計画の通りに起きたものではない。子どもの思いつき、想定外の技能差、誰かの一言から流れが変わる。そうした創発を、教師の力量の話としてではなく、仲間集団が持ち込む新奇性として捉え直せるなら、この論文の新奇性は、私の関心とつながる。予期できなさを、計画の失敗ではなく学習の資源として扱う道筋である。

そして、著者らが結論で協同的な活動の設計に触れたところに、私は「協同学習モデルやSELの学習は多要素に波及する」と書いた。協同学習モデルは、仲間からの支援を偶然に任せず、役割と手続きとして埋め込む方法である。そこで起きていることは、この論文の言葉で言えば、有能感・自律性・関係性・新奇性の支援を同時に配ることにほかならない。だからこそ、成果は一つの変数にとどまらず、やり抜く力にも、授業への没入にも、動機づけにも広がる。逆に言えば、協同学習モデルを実際に動かした教師の経験を見てきた立場からすると、この論文が測っているのは、協同学習が結果として生み出す状態の一断面である。尺度は状態を測るが、その状態をどうつくるかまでは教えてくれない。そこを引き受けるのは、やはり授業をつくる側の仕事になる。


元論文情報

  • タイトル:Measuring Peer Influences on Supporting and Thwarting Needs and Their Influence on Student Resilience, Grit, Engagement, and Motivation in Physical Education
  • 著者:Ruben Trigueros, Jose M. Aguilar-Parra, Noelia Navarro-Gómez, Adolfo J. Cangas
  • 掲載誌:Journal of Teaching in Physical Education, 45(4), 748–759
  • 発行年:2026年
  • DOI:10.1123/jtpe.2024-0175

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